• 経営者
  • 2019.11.14 (最終更新日:2022.03.26)

健康経営銘柄をとった企業はある意味先行している

  • 一般社団法人 社会的戦略研究所 代表理事 株式会社フジクラ健康社会研究所 代表取締役CEO
  • 浅野 健一郎
  • 経営者
  • 2019.11.14 (最終更新日:2022.03.26)

健康経営銘柄をとった企業はある意味先行している

  • 一般社団法人 社会的戦略研究所 代表理事 株式会社フジクラ健康社会研究所 代表取締役CEO
  • 浅野 健一郎
目次

健康経営というその経営手法をやり始めたきっかけ

経営手法

我々のモチベーション的には社員を元気にするという事で「元気プロジェクト」って呼んでおりました。
リーマンショックの頃で、さらに私たちのインフラ事業は構造不況業種でもあったので、新規事業をどんどん立ち上げ、新技術の研究開発もしなければいけません。
それは経営にとっても達成しなければいけない大きな課題でした。けど、新しいチャレンジは下を向いてる人にはできないんです。自分の中に「やるぞっ!」ていう気持ちを持っている人でないとチャレンジできないし、大きな壁を乗り越えられない。それが「元気」なんです。
だから、みんなが元気を失くした時こその「元気プロジェクト」になるんです。最初にフジクラを元気にして、日本を元気にして、そして世界を元気にするんだってこの取り組みが始まりました。

元気プロジェクトの内容とその狙い

元気プロジェクト 人を元気にするって非常に難しい話です。ある人を特定して考えれば、いろんな事ができます。

でも我々の会社で海外まで含めると6万人の人を元気にするという話だと、1つの方法論では到底無理ですが一緒に仕事をしてるという事だけは共通しています。
なので仕事をしているシーンで活き活きとしている状態、これが元気プロジェクトのゴールです。そこでポジティブ心理学のワークエンゲージメントを使って3つの要素で分解しました。
  1. 仕事に熱心に取り組める
  2. 仕事が活力になる
  3. 仕事にやりがいや誇りを感じている、です。
また手法も一つの解ではないので、いろんな事を試しました。
人によって活き活き仕事ができる環境は違い、全員に効く万能薬は存在しません。たくさんの事をやって、その中で本人が選択して、組み合わせてもらうというやり方です。
よくコミュニケーションという話も出るんですが、当然ながらそれぞれ求めている取り方は違う訳です。ディープだったり、ライトだったり、負担だからとりたくないっていう人だっている。

栄養学的にこれを食べれば良いっていう物がないのと一緒で、たくさんの事を用意して自分で選んでもらうという事でしか、究極的には選択肢はないかなと。それで相当な数をやっていますが、人も物も金も限られたリソースの中で、環境も違うと全てを全体で行うのは難しいです。

ITを使えばある程度できるんですけど、だいたい効果があまりないんです。ITって好きな人にとっては嬉しいんですが、多くの人たちから見ると瞬間的な興味はあっても、あんまり継続できません。やはり重要なのは、人と人との繋がりをどういうふうに構築していくかという事です。そのためのツールとして、いろんなイベントやプログラムをたくさん用意していく。そして人は必ず飽きるので、常に新しいもので同じものは繰り返さない。

今までの失敗

健康管理 経験をしているだけで、失敗は皆さんも一つもないと思います。けど、設定がおかしいと失敗に感じるんですね。
例えば全員参加を求めて、全員健康になる。その健康も血圧が10ミリ良くなるとか。そんなものは存在しない訳ですよ。

でも健康管理から入ると、そういうことを目指しがちで、これは失敗したって自分たちで勝手に決めてしまうんです。そもそものターゲットと目的とを区切って、血圧を下げたいんのであれば、血圧を下げなければいけないターゲットがいるはず。下げなくていい人は効果も出ないし出す必要もないので、単純にターゲットは血圧が高い人ですよね。では血圧の高い人がどの程度参加して、どの程度の人が改善すれば成功なのかと。そういう事を決めずにやって、盛り上がらないから失敗だと思い込んでしまうんです。
健康管理の成功をちゃんと決めてやるんだとしたら、そこでPDCAは回るはずです。きちんとKPI,KGIを決めてから1つの事をやって、それを検証して、改善する。それを回してる限りは必ずいい方向にしか行かないはずです。

健康経営の考え方と、業績貢献としての手法というところ

業績貢献 利益は結果じゃないですか。
利益を生む特効薬はなくて、いろんな要素が絡んでいて証明もできない。なぜ、今年のこの利益が上がったかという事を因果証明でできる人はほぼいないはずです。普通の事業活動の証明ができないのと一緒です。因果がわかっていれば、その通りやればいいので、経営も戦略もいらないですよね。

そこを勘違いされている方々がいて、これはエビエンスがあるのか、因果証明できるのか、投資対効果をコミットできるのか、という話をする。
例えば製造装置に100億円入れました。この100億円入れたからこの利益が上がったって、どうやって因果証明するのかと。たまたまかもしれないじゃないですか。もしくは100億円入れたけど利益が上がらなかった。これは100億円を入れたからダメだったのかなんて、誰も証明できないところで事業を運営している訳ですよ。生産性を測ろうって、そもそも生産性って何かと。

今測ってるものがあるんだったら、それで測ればいいし、今測れてないものは、健康だからっていっても測れないんです。
生産性っていうのを定義し、測れる手法が作れれば、どう変動したかっていう相関性は見えるかもしれませんが、という程度の話でしかありません。経産省のヘルスケア産業課も、分かり易くするために「やる事リスト」にしてしまう。リストになったら効果は関係なく、それを考えもせずにやろうとするんです。

働き方改革と一緒で、投資効果ありましたかって聞かれても、現状の評価もせず改善の余地があったかも分からない事をやってる。KPI・KGIと一緒で、何で測って、どこまで持っていくかも決めてないのに、効果が出たかどうかどうやって測るんですか。事業でもそんな事はやらないですよね。健康経営を経営的な視点で考えず、産業保健とか健康組合の保険事業の延長線上で考えてる人達が多いからみんな勘違いしてしまう。今後、これは大きく軌道修正しなければいけないポイントだと思います。

人事担当や広報が投資効果という事だけにフォーカスし過ぎている

投資効果 まずこの会社で何をやりたいのか、何を目指すのかという経営的なところを決めてから、どこがやるのか、誰がやるのかを決めるのが経営です。
別に人事がやる必要もないし、元から決まってもいません。それは、たぶん経営が考えてないだけですよ。その会社が本気にならないと効果は出ないので、経営が考えていないならやる必要はないし、その会社にとっては無駄だと思います。

私たちは健康経営という言葉が一般的でない時から経営的な目的でずっとやってきているので、今皆さんが普通に使う健康経営のイメージとすごく違うように感じます。
多くの企業の健康経営活動は、効果を決めてないし、経営的な嬉しさもないので、このままでは続かないと思います。これを正しい方向に向けるには大きく2つの要素が足りてないんです。
1つは経営者に対して「健康経営は経営の手法として、課題解決に役立つ可能性がある」とアドバイスできる人達がいない。従業員という大きなリソースを、経営的にマネージメントするのは非常に大事な筈です。今までは人事には給与とか、休暇とか限られたカードしかなかったのが、もっと増えた訳ですよ。だから、何が増えて何ができるかを経営的にアドバイスできる人を育てなければいけません。

もう一つは担当者です。任命された担当者は今までそんな勉強はしてきてないし、聞く人もいないのでセミナーとかシンポジウムに行きます。そこで事例を聞いて、フジクラって会社の歩数イベントが良さそうだって安直かつ短絡的になる訳です。でも、なぜ歩数イベントに行き着いてるかっていう事を裏まで理解しないと、その会社に必要かどうかなんてわからないです。だから、自社でやるべきことをきちんと理解できる担当者を教育する場が必要なんです。

健康経営の「健康」は「病気ではない」という意味ではなく、WHOの掲げる「肉体的にも、精神的にも、社会的にも満たされている状態」です。
だから病気でも障害を持っていても健康という状態はあります。特に仕事の上で一番重要なのは「社会的に会社の中で満たされているかどうか」です。心の問題をケアするためにEAPの外部相談窓口を作りましょうとか、健康のためにこんなプログラムをみんなでやりましょうって言っても、その個人が会社の中で、社会的に健康を満たされてなくて、疎外されている。そして、そこで生きるのが精一杯だとするならば、ケアはできないんです。そもそも、私たちは健康になるために生きてないですから。

人間も動物も全部そうだと思うんですけど、究極的には子孫を残したりとかが目的で、その為に必要なものの枠を順次広げていくんです。だから生存が危うい状態では、健康なんてケアはできないですよ。食べ物の質なんて言ってられないし、働かなければいけないから運動なんてしてられない。人がコアの部分で社会的に満たされている状態を作れれば、自然と食べ物のケアをするし、調子がいいように身体のコントロールもします。

しかし会社や担当者は表層だけを見て、太ってるとか、血圧が高いとか、喫煙してるとかって悪のラベルを貼るだけで、なぜそうなったかを理解しようとしない。物凄いストレスを会社の中で与えてたら、脳が糖分を要求して太る。ストレス解消するためタバコ吸う。で、交感神経優位になって血圧が上がる。つまり、まずこのストレスを取ってあげる事が必要なんです。起こっている現象ではなく、根本的な理由にフォーカスしない限り絶対に治らないです。

これからの健康経営

これからの健康経営 今まで経営が戦略的に見てこなかった健康をケアする必要性が出てきたので、時代としてステップは上がったと思います。
けど根本的には、これは会社が面倒を見るべき問題ではないと思います。自分の身体や心、社会的な立ち位置を自分でケアするというのは社会人として身に付けてなければいけない必須能力です。けどアスリートと違い、サラリーマンになるとその感覚がなくなる。仕事が忙しいから健康を維持しなくてもいいやとか。

でも雇う側から考えたら、自分を働けない体にしていくような従業員は雇いたくないですよね。
自堕落な生活続けて、仕事の能率が下がる。本人に問題意識もなく、そもそも社会人って何か、プロって何かっていう事を理解してない。けどそれは、今までそこを理解できるような教育をしてきていないからだと、私は思っているんです。社会に出るための教育の場で一切されていないので、会社の中でいろいろな事をしなければいけないのが現状かと。プロのスポーツ選手は成果が出なかったら、来年からお金がもらえないし、居場所もなくなる。故障でも病気でも同じです。それは自分の責任であれ事故であれです。

そう考えた時に、我々が会社に入る前に勉強しなければいけない事は何なんだろうかと。
そしてそれが学校教育の中で可能かどうかは、企業が握っていると思います。今の企業は有名大学卒で記憶力や要領が良く、そつなくこなす人間を採用するので、学校教育もそうなっています。これまでの日本企業は新卒一括採用して社内で教育して、ルールとキャリアパスを作っていくのが一般的な姿ですが、これからはそれだと戦えないんですよね。グローバルになった瞬間に、海外はどのセクションもプロフェッショナルがやっているのに、日本はどのセクションも素人がやっている。

だから日本は教育から採用まで考え直さないと、もうグローバルでは戦えないかもしれません。
しかし、その事を企業が求めれば、教育も自ずとそうなってきます。私は、採用試験で健康維持能力を見たいと思っているんです。自己保健能力があるかどうか。それができない人は、今後の企業ではコストになります。当然ながら病気になる確率が高くて、仕事の能率の下がる確率も高い。それは自分のコンディションをきちんと整え、やる気を自ら作って会社に来れる人とは大きな差になります。つまり自己保健義務の方が、大学の教科の点数の高さより圧倒的に価値があると思うんです。採用の時にその場で見極めるのは難しいから、何かの検定試験みたいなものでそれを見ていく。これが当たり前になると、その検定に受かるように教育現場で自己保健能力の教育をやらざる得なくなってくる。そして多くの学生たちが健康維持能力を学び、身につけるチャンスができます。
自分の身体は自分で守って、自分のコンディションは自分で整えていくんだっていう社員が100%になれば、全然違う社会になると思いますよ。

我々がなぜ今みたいな話を自信を持って言えるかというと、今までのデータがそれを示してるんです。
例えば、何かのイベントでその目標を達成する人は、仕事でもちゃんと達成するんです。ゴールを途中で止める人は、仕事でもそこそこで止めてしまう。
そして、もっと悪いのは無関心の人。そういう人は、いろんな事に興味を持たないから結果的に質の高い仕事はしない確率が高くなります。例えば、できない言い訳ばかり並べるとかですね。イベントのデータで、おなじ構造が見えてくるんです。

一般社団法人 社会的健康戦略研究所について

社会的健康戦略研究所 社会的戦略研究所は、健康経営の社会実装を推進もする社団法人ですが、健康経営度調査の穴埋め問題をサポートする団体ではないです。
経営課題を解決していく為にパスを作るには、研究していかなければいけない領域がたくさんあるんです。これは人材マネージメントとかヒューマンリソースの問題で、HRMまでも含めています。そして職域だけでなく、子供やシニアもカバーする形で健康社会の研究所なんです。

そしてその中で、教育という部分にも仕掛けていかないと、これからは会社が疲弊していくだけだと思います。
会社に入ってきて、身体だけでなく心を病んでしまう人もいるのは、レジリエンスのない状況で社会に送り出す教育の問題だと思うんです。太古の昔から、遊びの中で社会性を身につけ対処法を学ぶのが、私たちの生物としての機能だったはずですが、私たちは教育の中で社会的なレジリエンスを高めるための教育として遊ばせるって事をしなくなってる。
基本的な社会性の動物である人間としての能力を身に付けさせてないまま、大人として社会に出してしまう。個を守る教育が悪い訳ではないですが、社会性を身につける教育もしないで、ある年代からいきなり社会に放り出すって酷いんじゃないですかね。

今後の課題

健康経営銘柄 健康経営銘柄をとった企業はある意味先行しています。
これらの会社が表面上ではなく、どういう会社の姿が今後あるべき姿で、どんな社会を作っていけばいいのかを真剣に議論できるような場づくりをしていきたいです。健康経営でいくと70、80歳になった人たちのケアや癌や認知症等の重篤な疾病の話もある。例えばステージ4の余命何ヶ月の人の就労をどうするっていう議論は当然出てきます。
また認知症の人は仕事から排除するのかって話だって、物凄い大きな議論と社会的規範づくりが必要です。

それは、その人が就労中に死亡するかもしれないから、どの会社も単独ではなかなか決められないし厚労省も社会的議論なしにガイドは作れないような気がします。社会はもうマクロ的にはこの方向に一歩も二歩も踏み出しているので、その現象が抜き差しならなくなってから対処を考えるのではなく、その手前でどういうふうに乗り越えていくのか議論し、より良い社会に向けて一歩でも二歩でも前進させ、それを世界を含めていろんな場に広めていきたいと思います。

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