- ヘルスケア
- 2022.10.07
アルコールハラスメントをしない・させないために|訴訟事例とアルハラを防ぐポイントをご紹介
社会問題として注目されるアルコールハラスメント。2008年に発生した事件では全国で初めて飲酒による死亡の原因がアルコールハラスメントと認められました。コミュニケーション手段として用いられてきたお酒に対する認識が、変わりつつあります。職場を離れたコミュニケーションにはメリットが多くある一方で、飲酒により誰しもがアルコールハラスメントの加害者・被害者となる危険性があります。飲む人も飲まない人も正しく親睦を深めあえる楽しい飲み会づくりのためにはどのような点に配慮すればよいでしょう。今回はアルコールハラスメントの事例とそれを防ぐためのポイント、健康経営との関わりについてご紹介します。
アルコールハラスメントとは
アルコールハラスメントとは、飲酒に関連した嫌がらせや迷惑行為、人権侵害行為を指します。アルハラと省略して呼ばれることもあります。特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)によると、アルコールハラスメントの具体例として以下の5つを定義しています。
- 飲酒の強要
- イッキ飲ませ
- 意図的な酔いつぶし
- 飲めない人への配慮を欠くこと
- 酔ったうえでの迷惑行為
- 20歳未満の人に飲酒をすすめること
アルコールハラスメントの事例
アルコールハラスメントに関連する訴訟をご紹介します。アルコールハラスメントは誰にでも起こりうる問題です。事件が発生した経緯を知り、もしかしたら自分が被害者・加害者になるかもしれないという意識をもつことが重要です。神戸学院大学飲酒学生死亡事件
2008年に大学のサークル内で発生した事例です。春合宿中に引退した3年生が2年生男子に対して「きまり」と称した焼酎原液4Lの回し飲みを支持しました。この回し飲みは今後サークルを率いる2年生たちが団結するための決意表明として、伝統的な慣例行事になっていたそうです。集まった2年生男子13人が回し飲みをしても飲みきれなかった残りの500mlを、当時20歳だった男子学生が飲み干しました。その後、男子学生は意識を失いましたが、他の学生は適切な処置をせずに放置。翌朝、男子大学生は病院に運ばれましたが急性アルコール中毒に起因した嘔吐による窒息で亡くなりました。
本件は全国で初めて飲酒による死亡がアルコールハラスメントによるものと認められた事例です。
ザ・ウインザーインターナショナルホテル事件
2008年、上司によるアルコールハラスメントを受けた部下が精神疾患となり休職・自然退職に追い込まれたと主張した事例です。事件はアルコールに弱い体質である従業員が、上司に飲酒を強要されたことに起因します。上司は「酒は吐けば飲める」などと言って執拗に飲酒を強要。翌日は出張先から会社へ戻るため、無理な飲酒が原因で体調を崩している部下にレンタカーを運転させました。さらに留守番電話へ「ぶっ殺すぞ」と暴言を残すといったパワハラも確認されています。部下は上司によるハラスメントを受けて精神疾患をわずらい休職。休職満了日まで復職できず、自然退職の扱いで退職となりました。部下にあたる従業員は自然退職は違法として地位確認請求とパワハラへの慰謝料請求を行いました。訴訟の結果、パワハラが認定され加害者と会社に対し、共同で150万円の慰謝料の支払いが命じられました。
本件は会社側の使用者責任下で発生したアルコールハラスメントの事例です。
アルコールハラスメントと犯罪
アルコールハラスメントは法律で禁止されています。1961年に制定された「酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律」では、度を過ぎた飲酒が個人や社会に害を及ぼすとしてお酒の席での言動を規制。たとえば以下のような事例は犯罪にあたります。- 酔いつぶすことを目的に酒を飲ませた場合:傷害罪
- 飲酒を強要して、急性アルコール中毒で死亡させた場合:傷害致死罪
- 飲酒を強要して、急性アルコール中毒となった場合:過失傷害罪
- 泥酔者を放置した場合:保護責任者遺棄罪など
- 泥酔者を放置して死亡させた場合:遺棄等致死傷罪
- 威嚇して飲酒を強要した場合:強要罪
アルコールハラスメントを防ぐために
一人ひとりが適正な酒量のもとお酒の席を楽しむためには、本人も周囲の人もお互いに気遣う心が大切です。アルコールに対する耐性や反応、好みは人それぞれで異なることを理解し、決して強要してはいけません。アルコールハラスメントをしないためのポイントと、あわないためのポイントをご紹介します。
アルコールハラスメントをしないためのポイント
アルコールハラスメントは、意図せず加害者になっている可能性があります。お酒をすすめたことがすすめられた人にとっては強要と感じたり、自身もアルコールによって理性の抑制がはずれ威圧的な言動をしたりすることもあるためです。アルコールハラスメントを起こしやすい人の特徴として以下があげられます。- お酒をコミュニケーションのひとつととらえている
- お酒の席の言動は無礼講という認識がある
- お酒を飲むと気が大きくなる
- お酒を飲むと記憶がなくなる
- 物事を自分基準でとらえる傾向がある
- つい過去の武勇伝を語ってしまう
- 上下関係に厳しい
- 現在の暮らしに不満がある
アルコールハラスメントにあわないためのポイント
お酒が苦手な人や周囲の言葉に反論できない・断れないタイプの人は、あらかじめお酒の席での立ち振る舞いを考えておくとよいでしょう。事前に準備しておけばいざというときも冷静に対処できるようになります。以下のような人はアルコールハラスメントを受けやすい傾向にあるので注意が必要です。- 生真面目
- 優柔不断
- 場の空気を読みすぎる
- 気を遣いすぎる
- 周囲のすすめや誘いを断れない
- 集団のなかでいじられ役になることが多い
- 周囲に対して弱みがあると実感している
適正な飲酒と健康経営
社会人がアルコールハラスメントをしない・させないためには、会社が従業員へ指導することも大切です。打ち上げや反省会と称して、仕事に関わるお酒の席が設けられることも多くあります。万が一その場でアルコールハラスメントが発生した場合、会社にも責任を問われかねません。アルコールハラスメントを未然に防ぐ取り組みが求められます。またアルコールハラスメントを防ぐ取り組みの推進は健康経営につながります。
健康経営とは
会社が経営理念に基づいて従業員の健康維持・増進に取り組むことで、業績や組織の価値向上につなげる健康経営。それぞれの会社が従業員の活力や生産性アップを目指して、心と体の両面から健康促進事業を展開しています。たとえば定期的に行われる健康診断や健康相談、働きやすい環境整備のための働き方改革やスキルアップ研修は健康経営につながる取り組みです。経済産業省では2014年度から健康経営銘柄制度を設けて、健康経営に優れた会社を表彰しています。健康経営の取り組みが社会的に評価されることで、組織価値の向上につながるでしょう。表彰を受けた会社はホームページや紹介パンフレットに健康経営優良法人としてのマークを掲載しているので、チェックしてみてください。
飲酒に関わる健康経営の取り組み
正しい飲酒を指導することで健康経営を推進する取り組みもあります。適正飲酒に関する情報提供やディスカッションの場を設けたり、飲酒習慣のスクリーニングテストを行なったりするのは健康経営に関わる取り組み事例です。社外で行われる飲酒場面でも、打ち上げや反省会などと称して従業員が集まる場合には会社の責任下にあるいえます。アルコールハラスメントが発生すれば責任を問われる可能性もあるため、会社がアルコールに対する認識を改めるよう従業員に働きかける必要があります。社外でのコミュニケーションは仕事との距離を置けるため、個人の性格や特性に触れて親睦を深めるよい機会です。適正な飲酒は場の空気をほぐし、コミュニケーションの促進にもつながるでしょう。誰もが快適なコミュニケーションシーンをつくるために、お酒に対する理解を深め常にお互いを気遣う姿勢が大切です。
親睦を深める楽しい飲み会のために
アルコールハラスメントの事例と未然に防ぐためのポイント、健康経営との関わりについてご紹介しました。近年、大学や会社で発生した飲酒に関わる事件を受け、アルコールハラスメントは社会問題としても注目されています。コミュニケーション手段として用いられてきたお酒ですが、若年層の酒離れ傾向からもわかるように、お酒に対する認識が変わりつつあるといえるでしょう。職場を離れたコミュニケーションにはメリットが多くある一方で、お酒を取り入れる場合、お互いへの配慮が必要です。誰しもがアルコールハラスメントの加害者・被害者になりうることを理解して、お酒との付き合い方を考える必要があります。飲む人も飲まない人も正しく親睦を深めあえる、楽しい飲み会づくりを心がけましょう。
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