- ビジネススキル
- 2022.09.27
リカレント教育とは?メリット・デメリット、支援制度についても解説
- 目次
長く仕事を続けていくためには、仕事に関する学び直しが欠かせないものです。しかし、社会人として毎日仕事に奮闘しているところへ家事・育児などが加わると、自分の時間を作るだけで精一杯になり、勉強に割く時間はほとんどないのではないでしょうか。
そこで注目されているのが、学び直しを意味する「リカレント教育」です。今回はリカレント教育がどういったものなのか、またメリット・デメリットや利用できる支援制度についても解説していきます。
リカレント教育とは
リカレント教育とは、循環する・繰り返すことを意味する言葉です。社会人として働き始めてからも資格取得の講座を受けたりと、再度教育を受け、仕事と教育を繰り返すことを指します。
平日は仕事をしながら土日夜間に通学するなど、日本では仕事を休まずに学び直すことも、リカレント教育に含まれます。近年は日本人の平均寿命が伸びたことや、働き方改革といったことにより、子育てをしながら働いたり、定年後も新しい仕事をする人が増えました。
このようなライフステージやライフスタイルの変化に応じた働き方が求められることが、リカレント教育が注目される背景とされています。
リカレント教育と生涯学習の違い
混同されやすい「リカレント教育」と「生涯学習」ですが、学習をしていくことは同じであるものの、目的が大きく異なります。
リカレント教育は、仕事に活かすことを前提として、スキルや知識を学ぶことを目的としており、キャリアアップ・転職・業務効率アップに役立たせる狙いがあります。これに対して生涯学習は、仕事に関係なく、日々の暮らしを豊かにし生きがいとなる学習を目的とし、スポーツ・趣味・ボランティア活動などが含まれます。
日本でおこなわれるリカレント教育の現状
国が進めるリカレント教育
文部科学省では、国が認定している250以上の「職業実践力育成プログラム」を推進しており、現在している仕事や今後していきたい仕事に関わる専門的な知識や技術を習得することができます。
これは、大学・大学院・専門学校・ワークショップでの学習が可能です。週末の休みや仕事終わりの夜間に受講できる「社会人が受講しやすい曜日・時間」への設定、またリカレント教育を受けたいと思っている従業員が働いている企業と協力することによって、より効率的な学習環境を整えられると考えられています。
大学・大学院での学び直しを希望している方が多い
大学卒の社会人1,761人を対象にしたアンケートによると、再教育を前向きに考えている方の中で、大学や大学院を希望されている方が1番多いということが分かります。
引用元:大学教育に関する職業人調査
そこで文部科学省が推奨しているリカレント教育の、更なる普及に向けての取り組み事例を挙げていきます。
日本女子大学では、「リカレント教育課程」として1年間の受講期間をかけました。女性が育児などで一度離職しても再就職できるよう、仕事をしていくための知識や技能を身に付けられる講座を提供し、再就職が円滑に進むように企業とのマッチングも積極的におこなわれています。
東京電機大学では、「国際化サイバーセキュリティ学特別コース」として、1年間の受講期間をかけ、法律・倫理の分野を絡めたサイバーセキュリティ能力を持つ専門家を目指すことが可能です。このコースでは、週末の休日・仕事終わりの夜間に受講でき、期間も1年間ではなく最大4年間まで伸ばすことができる便利な制度となっています。
仕事で活かせる専門知識が求められている
大学卒の社会人を対象にしたアンケートによると、学び直しの中で1番多いものは75,8%の「仕事に必要な専門知識」であることが分かりました。次いで2番目は「資格取得のための準備」となっており、どちらも仕事に活かすための学習が求められています。
また、事務・営業職など「現在の仕事を支える広い視野」が多く求められていますが、技術職では現在の業務に活かせる技術など、より専門的な知識や直接活かせる技術が求められているという差があります。
引用元:大学教育に関する職業人調査
リカレント教育が必要となる理由
雇用の流動化
ひとつの企業に長く勤め続ける終身雇用は、今では当たり前のものではなくなり転職の回数も増え、雇用の流動化が進んでいます。その中で、社内教育に頼り切るのではなく他の企業でも通用していけるような、専門的な知識が求められるようになったことで、リカレント教育の充実が必要とされています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活かしながら企業でおこなう業務やサービス、組織自体を革新していくことを指します。このDXを推進していくには、知識や技術スキルの頻繁な更新が必要となってくるため、仕事をしながらも継続的かつ反復的な学習ができるリカレント教育が注目されているのです。
人生100年時代
「人生100年時代」の到来によって、長く働き続けていくことが当たり前の時代になりました。転職・再就職・キャリアアップをしていくためにも、学生を終えてからも新しい知識を蓄えていくためのリカレント教育が必要とされています。
リカレント教育をおこなうメリット3つ
従業員のスキル・専門性を高められる
一度就業すると、集中して学び直しをおこなうことが難しくなる一方で、技術革新によって更なるスキル更新が求められています。経験者のリカレント教育を充実させることによって、企業の業務に関わるスキルや専門的な知識をアップデートすることができます。
業務の効率が良くなることで企業の業績が向上する
リカレント教育を通して、従業員のビジネススキルが上がることによって生産性が上がり、企業の業績向上にも繋がります。従業員も、自分で学んだものが自分の仕事として企業へ還元できることによって、働きがいをより感じられるメリットもあります。
従業員の年収アップに繋がりやりがいを与えられる
従業員がリカレント教育を受けることによって、できる業務の幅が増え、昇給や昇格に繋がる可能性があります。従業員の頑張りへの評価にもなるため、やりがいを与えることもできます。
また、30歳以上の男女におこなった「自己啓発をした人・していない人の年収の差」に関する調査によると、「自己啓発をした方は、2年後に約9.9万円、3年後に約15.7万円年収が増える 」と、年数を重ねていくごとに大きな差が開いていくことが分かります。
引用元:人生100年時代の人材と働き方
リカレント教育をおこなうデメリット2つ
導入に費用がかかってしまう
リカレント教育を企業で推進していく上で、受講費・学費や社内設備の準備などどうしても費用がかかってきてしまいます。
同時期に申し込みが重なってしまうと経費がかさんでしまう可能性がある一方で、仕事と並行して学習をおこなう方も多いことから、期間を要し即効性のある教育ではありません。これらを踏まえて、長期的目線で取り組む必要のある投資といえます。
教育の環境・システムを整える必要がある
リカレント教育で質の良い知識を習得するためには、残業・休日出勤を減らすなど学習へ割く時間の捻出なども含めた、学習をおこなうための環境を整える必要があります。日頃の勤務時間や業務負担から見直し、学習カリキュラムに柔軟に対応できるように改善することも大切です。
リカレント教育の支援制度6つ
教育訓練給付金
教育訓練給付金とは、中長期的なキャリア形成による雇用の安定や再就職の推進を目的としており、厚生労働省指定の講座修了後に受講費用の20~70%が支給される制度となっています。また、雇用保険へ加入することで制度を利用することができ、約14,000もの対象講座があるなど、幅広い選択肢があることでも注目されています。
高等職業訓練促進給付金
高等職業訓練促進給付金とは、ひとり親で育児をされている環境の方が利用でき、国家資格や民間資格に関わる資格取得を支援してくれる制度です。月10万円の支給があり、住民税課税世帯は月7万5,000円に加えて最終年限に4万円が支給されます。
公的職業訓練(ハロートレーニング)
公的職業訓練(ハロートレーニング)とは、希望している仕事に就職するために必要な知識やスキルなどを無料で身に付けることができる制度のことを指し、雇用保険に加入することで利用することができます。もし雇用保険に加入していない場合でも、月10万円の支給を受けることも可能となっています。
キャリアコンサルティング
キャリアコンサルティングとは、在職中の方を対象にしたサポート制度で、キャリア形成サポートセンターにてキャリアコンサルタントからアドバイスをもらうことができます。対面だけでなくオンラインもあるので、コロナ禍でも心配なく場所を選ばずにサポートを受けることができます。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金とは、正規雇用の従業員の業務で専門的な知識・技能を習得できる制度で、「特定訓練コース」「一般訓練コース」「教育訓練休暇付与コース」「特別育成訓練認定訓練コース」「建設労働者技能実習コース」「建設労働者コース」「障がい者職業能力開発コース」など多くのコースが用意されています。
生産性向上支援訓練
生産性向上支援訓練とは、専門知識のある民間企業に委託し講義やグループワークなどより効果的な学び方を提供する訓練のことを指し、企業ごとに合わせたオリジナルカリキュラムを組んでくれるコースも用意されています。
日本でリカレント教育をおこなう上での課題
日本の学び直し率はOECD中、最下位である
OECD(経済協力開発機構)とは、「加盟国の財政金融上の安定を維持しつつ、世界経済の発展に貢献すること」「経済の発展途上にある地域の健全な経済成長に貢献すること」「多角的・無差別な世界貿易の拡大に寄与すること」を目的として1961年に設立されました。現2022年時点で38ヵ国が加盟しており、「経済政策・分析」「規制制度・構造改革」「貿易・投資」「環境・持続可能な開発」「ガバナンス(統治)」「非加盟国協力」などの分野において多岐に渡る活動をおこなっています。
引用元:外務省「OECD(経済協力開発機構)の概要」
また、イギリス・オーストラリア・ドイツなどを含めたOECD加盟国で、25歳以上の社会人学生を対象とした調査によると、平均が17,6%なのに対して日本の学士課程入学者が全体の1,8%と、最下位であることが分かりました。
引用元:社会人の学び直しに関する現状等について
日本での学び直しの環境が整っていないことや実践できている方が少ないことから、学び直しを積極的に進められていない現状が残っています。
従業員の課題
リカレント教育を取り入れながら働いていく上で
「職場が認めていない・導入していない」
「仕事が忙しく学習時間を割けない」
「受講料や学費の負担が厳しい」
「ニーズに合ったカリキュラムの用意がなかなかない」
など、従業員にとっての課題がまだまだ沢山あり、勤務先の協力があることで、働きながら積極的に学習をしていく環境をより気軽に取り入れることができます。
企業の課題
リカレント教育を企業の福利厚生として従業員に推進していくにあたって
「従業員が学習できる環境を積極的に整える」
「従業員の学費・受講料の負担」
「残業時間や休日出勤の調整」
などの課題があり、ひとつの福利厚生にしても企業側が準備しなければいけないことが多くあります。
リカレント教育を受ける従業員には、仕事後の学習時間・授業受講時間が必須となるため、急な残業や休日出勤などが厳しくなってしまいます。繁忙期は受講期間を延ばしてもらったり業務量を調整したりなど、学習を積極的におこなえるように環境を整えなければいけません。
また、仕事にプラスして学習する方が多い中で、健康の維持がなければ両立し続けることは難しいでしょう。職場環境を整え従業員の心身の健康を保つ、健康経営優良法人の認定レベルを満たせるような職場環境をしっかり作ることによって、新しい福利厚生をも成立させることができるといえます。
リカレント教育によって従業員の成長機会を積極的に創出しよう
今回は、リカレント教育がどういったものなのか、またメリット・デメリットや、利用できる支援制度について解説していきました。
50年以上前から提唱され、学び直しの制度として浸透してきたリカレント教育ですが、主に企業内教育の範囲に収まる教育で終わってしまい、現代で求められている職に対しての専門性やニーズをなかなか満たすことができないと言われています。
また、学習に充てる時間がないことや高い受講料などの障害がある中で、従業員の能力をより発揮させるためには、企業側が積極的にリカレント教育に取り組み、従業員が前向きに取り組めるように働きかけていく必要があります。
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