- ヘルスケア
- 2022.09.12
欠勤以上の損失?健康経営でも注目されるプレゼンティーイズムとは|損失や対策事例をご紹介
従業員の生産性を低下させるプレゼンティーイズム。不調による休みや無断欠勤以上の損失を与えることが指摘され、健康経営の視点からも注目されています。
個人的な問題として見過ごされがちなプレゼンティーイズムですが、大きな損失が予想されることから、企業全体で取り組むべき課題といえるでしょう。今回はプレゼンティーイズムの症状や原因、改善策、対策事例などをご紹介します。
プレゼンティーイズムとは
プレゼンティーイズムとは体調やメンタル面の不調を感じているにもかかわらず仕事をする状態のことです。たとえば、肩こりや腰痛、食欲不振、だるさを感じながらも出勤するのはプレゼンティーイズムといえます。
近年では本来もっている力が発揮されず、生産性を低下させるとして問題視されています。
アブセンティーイズムとは
アブセンティーイズムとは体調やメンタル面の不調によって休みが続いたり無断欠勤が生じたりする状態です。プレゼンティーイズムと対になる言葉として使われます。病欠による生産性の低下は、企業で可視化できます。たとえば従業員へアンケート調査を行ったり、欠勤・休職・休業状況を確認したりして対策をとることが可能です。
しかしプレゼンティーイズムは可視化が難しく、アブセンティーイズム以上に医療コストや生産性の低下が顕著であるという見方もあります。
プレゼンティーイズムの計算方法
経済産業省が発表した「企業の「健康経営」ガイドブック 〜連携・協働による健康づくりのススメ〜」では、プレゼンティーイズムの測定方法には下記の5つがあります。 - WHO-HPQ
- 東大1項目版
- 日本語版WLQ(Work Limitations Questionnaire)
- WFun(Wrok Functioning Impairment Scale)
- QQmethod
アブセンティーイズムと比較して可視化されにくいことが問題視されるプレゼンティーイズム。しかしこれらの測定方法を用いることで、企業の労働生産性におけるプレゼンティーイズムがもたらす損失額を算出できます。
プレゼンティーイズムのリスク
プレゼンティーイズムの症状として、以下があげられます。
- 片頭痛
- 運動器や感覚器の障害(頭痛、腰痛、肩こり、関節リウマチ、関節炎、眼精疲労など)
- アレルギー(花粉症、アレルギー性鼻炎など)
- 心身症(過敏性腸症候群、どうき、息切れ、食欲の低下、ストレス性の便秘など)
- 生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症など)
- 月経・月経前症候群(PMS)
- 睡眠不足
- メンタルヘルス不調
プレゼンティーイズムの損失
プレゼンティーイズムの健康コストはアブセンティーイズムの17.7倍という試算があります。経済産業省が発表した「企業の「健康経営」ガイドブック 〜連携・協働による健康づくりのススメ〜」では、従業員アンケートによってアブセンティーイズムを把握。WHO-HPQによってプレゼンティーイズムを評価して1年あたりの健康関連総コストを計算しています。3組織から得た健康関連の1年当たり総コストとプレゼンティーイズム・アブセンティーイズム、それぞれのアンケート結果を計上すると、アブセンティーイズムは全体の健康関連総コスト中で約5%を閉めるのに対し、相対的プレゼンティーイズムは約78%を占めています。
相対的プレゼンティーイズムとは、不調により損失するコストのこと。これは価格にして約56万円にのぼります。企業では1年あたり、プレゼンティーイズムによる損失が平均約56万円出ているということです。
プレゼンティーイズムの課題
プレゼンティーイズムによる損失が問題視されますが、改善のためには課題があります。まず症状が可視化されづらく、気づいたときには深刻な症状に発展している可能性があるということです。プレゼンティーイズムの状態にある人は普段と変わらず健康な人と同じように出勤しているため、周囲も普段通り業務を任せます。しかしプレゼンティーイズムの状態では集中力が低下し、作業効率が落ちるのでミスが発生したり業務に遅れが生じたりするでしょう。
また目に見えない不調が悪化し、目に見える不調に至った場合には長期間の療養や通院が必要になります。プレゼンティーイズムの状態からアブセンティーイズムへと変化するケースです。
プレゼンティーイズムがアブセンティーイズムへ変化する可能性から、プレゼンティーイズムは長期的な生産性低下を引き起こすことも課題としてあげられます。心身の不調にはなるべく早く対策をとり、症状の改善が重要です。
しかしプレゼンティーイズムは周囲が気づけず、本人も自覚症状がなかったり放置してしまったりすることが多くあります。対策が遅れ従業員が十分なパフォーマンスを発揮できない状態が続くと、企業の生産性も長期に渡って低下するでしょう。
可視化されづらいプレゼンティーイズムには、改善のためにも多くの課題があります。
プレゼンティーイズムの原因
プレゼンティーイズムを引き起こす背景には、日本人特有の価値観が影響していると考えられます。勤勉が美徳とされる日本人。仕事でも作業効率より頑張る姿勢や協調性が評価されがちです。また責任感が強い人は業務の進み具合や職場の人手不足などの損失を考えて、仕事に行かなければならないと思ってしまうでしょう。自身の体調をかえりみず多少の不調なら出勤する人が多いことが、プレゼンティーイズムの原因です。
プレゼンティーイズムを改善するためには、従業員が欠勤に対して感じる罪悪感や責任感を取り除く必要があります。個人の意識に働きかけるのはもちろん、休みやすい職場づくりが重要です。プレゼンティーイズムは個人ばかりでなく、企業全体で取り組むべき課題といえるでしょう。
プレゼンティーイズムの予防のために
プレゼンティーイズムを予防するためには、普段の生活を見直して不調に気づき対処することが重要です。特に以下の3つには注意しましょう。
- 食生活のかたより
- 運動不足
- 生活習慣の乱れ
プレゼンティーイズムが見逃されると仕事に支障が出るばかりでなく、症状が進行して重大な病気になったり通院・入院に期間と費用を費やしたりする可能性があります。
心身の不調には早めに気づいて、しっかりと対処することが大切です。
プレゼンティーイズムと健康経営
従業員の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益性を高めるという考え方のもと、戦略的に健康管理を推進する健康経営。たとえば健康診断や健康相談を行なったり、ストレスチェックを導入したりする身体的健康の促進に取り組む企業があります。
また身体的健康ばかりでなく、スキルアップ研修の導入や職場内コミュニケーションの活性化などは精神的健康の促進事例です。各企業が経営理念に基づいて、従業員の活力向上や生産性向上を目指した取り組みを行なっています。
プレゼンティーイズム対策の事例
経済産業省が発表した「健康経営に貢献するオフィス環境の調査事業」ではオフィス環境や職場体制を整備して下記の7つの行動を誘発することが、プレゼンティーイズム・アブセンティーイズムの解消に結び付くと指摘しています。1、快適性を感じる
まずは快適な作業環境を整備することが大切です。明かりや空調、音、匂いの管理など、快適な職場を心がけます。またパーソナルスペースにおいても、椅子の座り心地や机の高さ、自分にとって姿勢が伸びる状態か、手に触れるものは不快ではないかなどに気を配りましょう。実際に快適性を感じる職場づくりに取り組んだ企業では、職場に緑を取り入れて室内環境を緑化したり個人のデスクを1.5倍に広くしたりしている事例があります。臭い対策はたばこ問題の解消にもつながるでしょう。従業員一人ひとりにとって快適な職場環境を意識することが重要です。
2、コミュニケーションする
職場内コミュニケーションの活性化は、スムーズな業務進行に必要不可欠です。普段からあいさつを交わしたり気軽にあいさつをしたりすると良好な関係づくりにつながります。また業務に関わって感謝の気持ちを伝えあう、個人の業務内容や会社の目標を知る、共同作業を取り入れるなどもコミュニケーションの機会を増やすために効果的です。実際にコミュニケーションの活性化に取り組んだ企業では、社内新聞を発行して会社や従業員同士を知る機会を設けたり清掃活動を取り入れて従業員間はもちろん地域の人とのコミュニケーション機会を増やしたりしている事例があります。コミュニケーションは「コミュニケーションしましょう」といって増えるものではありません。良好な関係づくりのためのきっかけづくりが重要です。
3、休憩・気分転換する
効率的な業務進行のためには、休憩や気分転換を上手にとることが大切です。飲食、雑談、仮眠、インターネットや音楽などの娯楽、1人になるなど、休憩や気分転換の方法は人それぞれ。そのための時間や場所をしっかり設けて、企業や職場全体で休憩や気分転換の時間をとりやすい雰囲気づくりを行います。実際に休憩・気分転換の機会を設けた企業では、従業員同士で気軽に雑談できるカフェスペースを設けたり終業後も運営する飲食店を設置したりする事例があります。しっかりと休憩・気分転換をして効率的に業務に取り組めるよう、従業員一人ひとりのニーズにあわせた時間や場所の整備が重要です。
4、体を動かす
体を動かすことは運動不足解消や気分転換になり、プレゼンティーイズム対策に有効です。デスクワークによる座位行動を意識的に減らす、徒歩や階段の利用を促進する、ストレッチや体操を取り入れるなど、仕事中でも体を動かす機会はあります。実際に体を動かす機会を取り入れた企業では、社内にうんていやボルダリングウォールを設置したり座位行動にバランスボールを利用したりする事例があります。仕事が忙しいと運動がおろそかになりがちです。企業が体を動かすことを推奨すれば、プレゼンティーイズムはもちろん従業員が抱える健康課題も解消されるでしょう。
5、適切な食行動をとる
適切な食生活は、プレゼンティーイズム対策はもちろん身体的健康を促進するためにも有効です。企業が適切な食行動を推奨する場合は、特に会社にいる間の食事をサポートできます。間食や昼食などに働きかけて、適切な食行動をうながすことが重要です。実際に適切な食行動をとるよう働きかけた企業では、健康メニューを提供する社員食堂を設置したり社内で野菜を栽培して提供したりする事例があります。外食産業が充実し手近にあるコンビニでいつでもどこでも食事をとれるようになって、適切な食行動がおろそかになりがちです。栄養バランスや適切な量に配慮した食事を意識できるよう企業が働きかけることは、プレゼンティーイズムや従業員の健康課題解消のために有効な手段といえるでしょう。
6、清潔にする
心身の健康のためにも最低限求められるのは、身の回りを清潔にすることです。手洗い・うがいの徹底は身体的健康を守ります。また身の回りを掃除することで身体的健康はもちろん、精神的にもすっきりとして気持ちよく仕事に向かえるでしょう。たばこに対する向き合い方を考えることも、清潔にする取り組みに含まれます。実際に、清潔にするよう取り組んだ企業では、トイレに清潔なタオルや洗面台を拭くための布巾を常備して手洗い・うがいに対する意識を高めたり、職場内の禁煙と分煙の取り組みを進めたりしている事例があります。清潔な環境は心身とも健康的に整えるばかりでなく健康行動も誘発させるため、プレゼンティーイズムや健康課題解消のために有効な手段です。
7、健康意識を高める
プレゼンティーイズム防止のためには、従業員一人ひとりが自らの健康状態に気を配り、積極的に働きかけることが重要です。よって健康意識を高めるための取り組みが企業に求められています。健康情報を発信したり健康状態をチェックするきっかけづくりをしたりすると従業員の意識改革につながるでしょう。実際に健康意識を高めるために取り組んだ企業では、社内クリニックを開設したり専任看護師を常駐させたりしている事例があります。身近に健康について相談できる機関があることで、従業員も健康に気を配り、ちょっとした不調でも対処できるようになるでしょう。健康に対する意識づくりが重要です。
プレゼンティーイズム対策で生産性アップ
プレゼンティーイズムの症状や損失、対策事例をご紹介しました。従業員の生産性を低下させ、アブセンティーイズム以上の損失を与えることが指摘されているプレゼンティーイズム。症状が見えるアブセンティーイズムと比較して、プレゼンティーイズムは個人の感覚で測り対処する必要があるため見過ごされる可能性があります。
従業員一人ひとりが健康意識を高めて不調に気づくようにすることはもちろんですが、企業でも対策をとることが重要です。従業員の体調不良は企業の損失につながるので、個人任せではなく企業全体として取り組むべき課題といえます。今回ご紹介した事例を参考に、プレゼンティーイズム対策を検討してみてはいかがでしょう。
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