• 働き方改革
  • 2022.07.29

従業員シェアのメリット・デメリットとは?事例や課題、活用できる助成金制度をご紹介

握手を交わすビジネスマン
目次

異業種間で従業員を共有する従業員シェアの取り組みが、新型コロナウイルスの影響で広がっています。人材のシェアは出向元、出向先、従業員の三者にとってメリットが大きい一方で、労務関係の調整や従業員のサポートなどには注意が必要です。政府や自治体も支援する従業員シェアについて、取り組み事例や助成金制度をご紹介します。

従業員シェアとは?

会議室でグータッチするビジネスチーム
従業員シェアは雇用シェアともいわれ、人手の余っている企業から不足している企業へ一時的に従業員を送ることを指します。企業間で従業員を共有(シェア)することから、このようにいわれています。近年の新型コロナウイルスの影響で問題視されるのが、一時的な人手不足。その課題を解決するために話題になっているのが従業員シェアです。

中国で広まった従業員シェア

従業員シェアの動きが初めて起こったのは、2020年2月ごろの中国です。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、厳しい外出自粛政策がとられ、店舗はサービスの提供を休止。地域間の移動も厳しく制限されました。そんななかオンラインショッピングの需要が膨らみ、配達の人手が不足しました。そこでスーパーなどのオンラインショッピング運営者が休業中の経営者に呼びかけ、仕事がない従業員の人手を借りることにしたのが、従業員シェアのはじまりです。雇用主は賃金支払いの負担が軽減し、従業員を削減する必要もありません。受け入れるオンラインショッピング運営者も、継続雇用のリスクなく一時的なサービス需要に対応できました。お互いのメリットが認められ、この取り組みは中国政府からも支援されるようになります。

2020年4月、日本でも緊急事態宣言が発令され、雇用の余剰と不足が生じました。飲食店をはじめとするサービス業は休業や事業縮小を余儀なくされ、デリバリー業界で増加した出前需要に対応するべく、従業員シェアがスタート。この動きが現在でも、業種・職種を問わず広がっています。

派遣社員との違い

派遣やアルバイト、副業とは雇用形態が異なるのが従業員シェアです。従業員シェアは在籍型出向にあたり、従業員は出向元と出向先の両方で雇用契約を締結します。報酬は出向元企業から支払われ、派遣手数料はかかりません。従業員から見ると、保険や報酬の支払い関係はこれまで通り出向元企業が行い、実際の業務のみ出向先の指揮命令をうけるかたちです。

健康経営でも注目される人材の価値

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業は人材の価値に再注目しています。従業員の身体と心の健康をサポートし、長く元気に働いてもらうことを目指す健康経営。しかし新型コロナウイルスは業績に影響を及ぼし、従業員を安定して雇用することも困難になりました。そこで、採用コストを抑えながら優秀な人材を確保できる従業員シェアが注目されています。

従業員にとっても、他業種の知識やスキルを獲得でき、新たな人脈を広げられるメリットがあります。それらは従業員のモチベーションアップにつながり、心の健康を支えるでしょう。従業員シェアは、健康経営の視点でもプラスの効果が期待できます。

 従業員シェアのメリット

笑顔で働くビジネスパーソン
従業員シェアは出向元企業ばかりでなく、出向先企業、出向する従業員にもメリットがあります。具体的にご紹介しましょう。

出向元企業は従業員の雇用を確保し、他社の知見吸収も可能

従業員シェアにおいて、従業員の籍があるのは出向元企業です。社会保険などの負担は出向元と出向先の企業間において話し合われますが、業務にあたる報酬は出向先企業から支払われます。これにより出向元企業は人件費の削減が可能です。また従業員が再び出向元企業で働くとき、従業員シェアで得た知見を業務に生かすことで業務の効率化や業績アップにつながります。

出向先企業は即戦力を確保し、人件費が削減できる

人手不足である出向先企業にとってスキルを持った即戦力人材が得られるメリットは大きいでしょう。また採用コストがかからず、人件費の削減が可能です。さらに従業員を継続雇用することによる昇給の負担や、不当解雇のリスクを回避できます。

出向する従業員は雇用が維持され、知識・経験を積める

従業員は企業の業績が不安定な期間にも雇用が継続されるので安心です。従業員シェア終了後は出向元企業に戻ることができます。また転職せずに異なる業界・職種で経験を積めるので、視野が広がり、その後のキャリアライフにも生かされるでしょう。

従業員シェアのデメリット

モノクロのオフィス
大きなメリットを生む従業員シェアですが、トラブルのリスクもあります。大切にしたいのは出向する従業員のフォローです。業績が不安定ななかでも、安定した雇用を継続するために行われる従業員シェアですが、初めての場所で仕事をしなければならない従業員は不安を抱えるでしょう。その不安と向き合い、細やかなサポートを心がけることが大切です。注意すべきポイントを具体的にご紹介します。

出向元と受け入れ企業での労務関係調整

従業員シェアが区分される在籍型出向には、労働基準法などの法律規定がありません。出向元と出向先の企業間で話し合いを行い、従業員の給料や社会保険料の負担などを決めます。就業規則や労働協約などでの包括的同意があれば、個別の同意は不要です。このため企業間、また従業員と企業間でのトラブルに発展する可能性もあります。特に以下の点については、あらかじめ書面におこすなどして確認しておきましょう。
  • 労働契約の期間や更新の基準
  • 就業場所や業務内容、始業・終業時間について
  • 所定労働時間を超える労働の有無、就業時転換、休日・休暇の対応について
  • 賃金額や計算・支払いの方法、締切および支払いの時期
  • 退職や解雇に関すること
  • 出向した従業員の給与・保険などの取り扱い
以上の点は特にトラブルになりやすいポイントです。あらかじめ企業間で確認し、従業員から相談があれば丁寧に対応しましょう。

人材流出のリスク

出向した従業員が自身の能力や可能性に気づき、転職する可能性があります。従業員にとって出向が新たな挑戦のきっかけになるケースです。従業員は従業員シェアによって異なる業界・職種での仕事を経験し、知識やスキルを広げ、新たな人脈を作れます。業務終了後は培った知識やスキルを、もとの仕事でも生かせるでしょう。一方で転職という選択肢もあり、企業はそのことを理解して真摯に対応しなければなりません。

従業員シェアのはじめ方

パソコンで情報収集する男性
新型コロナウイルスの影響を受けて、国や自治体が積極的に従業員シェアを推進しています。助成金が支払われる場合もあれば、自治体が企業のマッチングを支援する仕組みまでさまざまです。実際の取り組み事例をご紹介します。

活用できる助成金制度

従業員シェアに活用できる助成金制度があります。新型コロナウイルス感染症の広がりをうけ、従業員の雇用を維持するために政府が創設しました。それぞれの対象や助成方法をご紹介します。

産業雇用安定助成金

2021年に創設された、在籍型出向を支援する制度が産業雇用安定助成金です。新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの事業主が事業縮小の危機に直面しました。そこで労働者の雇用を維持するため、出向元と出向先の事業主に、出向に要した賃金や経費の一部を助成します。

助成対象経費は、出向運営経費と出向初期経費の2つ。出向運営経費では、出向期間中に発生する賃金や、教育訓練、労務管理の調整にかかる経費などの一部を助成します。一方、就業規則整備や備品準備など出向にあたって就業環境を整えた場合に対象となるのが出向初期経費です。出向元、出向先企業間で出向契約・出向協定を結んだ後、計画届を都道府県労働局に提出することで受給できます。 

雇用調整助成金

2020年に新型コロナウイルスの拡大を受け、助成対象を拡大したのが雇用調整助成金です。新型コロナウイルス感染症の影響により事業を縮小した場合、休業手当などの一部を助成します。従業員の雇用維持を図るために創設された助成金で、事業主は労使間協定に基づいた雇用調整を行わなければなりません。計画を策定し、都道府県労働局に提出することで受給できます。

注意しなければならないのは、雇用調整助成金が出向元企業のみに支払われるという点です。産業雇用安定助成金と異なり、出向先企業には費用面でのメリットがありません。従業員シェアなどを行う際には事前に確認しておきましょう。

賃上げ促進税制

従業員シェアによって給与等が増加する場合には、賃上げ促進税制が適用される場合があります。従業員の給与を前年度より一定以上増加させた企業に、その増価額の一部を法人税から税額控除できる制度です。

ただし税制面での優遇が法人税の税額控除に限定されるため、そもそも法人税額の支払いが少額の企業にはメリットが薄く、注意が必要です。また従業員の給与やボーナスアップが前提なので、経営状況によってはマイナスに働く可能性もあります。導入前に条件などを確認することが重要です。

都道府県も支援する従業員シェア

政府の推進を受けて、民間のマッチング会社が従業員シェアを支援するほか、自治体にもその動きが広がりつつあります。自治体の従業員シェア推進事例をご紹介しましょう。

北海道短期おしごと情報サイト

北海道庁が運営する求人情報サイトです。新型コロナウイルスの感染拡大により観光客が激減した観光関連産業は、事業継続や従業員の雇用維持の悩まされています。一方、農繁期には人手不足に直面する農業があることから、これらをマッチングさせることを目的に立ち上げられました。

人材を必要とする企業が、北海道短期おしごと情報サイトに求人情報を掲載します。アルバイトや副業、社会貢献、また企業からの出向を考える人はこの情報をもとに問い合わせをすることでマッチング完了です。事業継続とともに、一次産業の生産維持を目指す取り組みのひとつといえるでしょう。

石巻市水産業人材マッチング事業

宮城県石巻市では、漁業・水産業界の労働力確保に従業員シェアを活用しています。新型コロナウイルスの拡大をうけ海外からの入国が規制され、重要な労働力であった外国人技能実習生の確保が困難になりました。

そこで石巻市が窓口となり、人材マッチング事業をスタート。対象は新型コロナウイルスによる休業や営業縮小により雇用維持が難しい宿泊、飲食、サービス業などです。経営状況や業務内容に応じて最適な雇用形態を提案するなど、細やかな対応が人手不足解消を後押ししています。これは長年にわたって労働力が不足していた漁業・水産業界にとっても画期的な取り組みです。新型コロナウイルス禍に始まった、新たな労働力確保の手法として注目されています。

従業員シェアの相談窓口

従業員シェアの実践方法や助成金申請については、都道府県労働局や産業雇用安定センター、ハローワークで相談が可能です。北海道の事例のように自治体や全国の経済産業局がマッチングを推進している場合もあります。出向元、出向先企業の情報を掲載したポータルサイトもあるので、確認してみるとよいでしょう。

雇用を確保して生き生きと働く、従業員シェア


異業種間で従業員を共有する従業員シェアの取り組みについてご紹介しました。人材のシェアは出向元、出向先、従業員にとってメリットが大きい一方で、労務関係の調整や従業員のサポートなどに注意が必要です。国や自治体が支援し助成金制度も整備されているので、雇用の維持・確保に悩まれた際には検討してみるとよいでしょう。

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