- 働き方改革
- 2022.06.20 (最終更新日:2022.06.24)
働き方改革とは?会社員なら確認しておきたいメリット・デメリットを徹底解説!
- 目次
大企業を中心に2019年までに広がった「働き方改革」。その内容についてご存知でしょうか?経営者や管理職であれば内容を知らないことで法違反をしてしまう可能性もあります。
また、一般社員であれば本来守られるべき権利が守られていないことに気づかない可能性もゼロではありません。知らないうちに法違反をして会社にダメージを与えたり、働きやすい環境を得る権利が蔑ろにされることがないよう、内容をきちんと確認していきましょう。
一億総活躍社会実現に向けた働き方改革とは
働き方改革とは、首相官邸サイトにおいて以下のように書かれています。
働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。
引用:首相官邸サイト
働き方改革を推進するために、2018年の通常国会で「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)」が成立し、2019年より一部が施行されています。
なぜ、働き方改革が叫ばれているのでしょうか。その背景から確認していきましょう。
なぜ必要?働き方改革の背景
労働力人口の減少
現在の日本は少子高齢化が進み、経済成長率の低迷・年金制度の崩壊などが問題視されているように、生産年齢(15歳以上65歳未満)人口が1995年をピークに減少。
生産年齢人口とは働くことができる年齢の人口のことで、5年に一度行われる国勢調査において数値が確定されています。前回、2020年の国勢調査における生産年齢人口は7,508万7,865人でした。
総務省のサイトによると、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によって以下のように推測されており、労働力の不足により生産力と国力の低下が懸念されています。
生産年齢人口は2030年には6,875万人、2060年には4,793万人にまで減少する
引用:総務省サイト
労働生産性の低下
労働生産性とは、「労働者1人あたりあるいは1時間あたりに生み出す成果」を言います。
国の経済成長において重要な指標で、日本の労働生産性は、日本を含むアメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・イタリア・カナダの先進7カ国(G7)のなかで最も低いと言われ、仕事に費やす労働者数と労働時間が多い傾向にあります。
労働生産性を維持していくには、最小人数・時間で最大成果を出すことのほか、付加価値を提供できることなどが必要でしょう。
長時間労働と過労死の問題
労働基準法における法定労働時間の上限は、1日8時間・週40時間迄と定められています。
それを超える時間外労働及び休日勤務を行う場合は、使用者と労働者代表が労働基準法36条に基づく労使協定(36協定)を締結し、所轄の労働基準監督署長へ届け出なければなりません。残業時間の上限は労働基準法により、原則として、月45時間・年360時間となっています。
しかし、業務量が多すぎることや従業員不足などの理由によって、業務時間内に業務を終えられないと労働時間が長くなることに。さらに状態が悪くなると過労死につながることもあり、過労死の問題は訴訟に発展したこともあり社会問題になっています。
過労死とは、過労死等防止対策推進法第2条により、
- 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
- 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
- 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
と定められており、月80時間の時間外労働は過労死ラインと呼ばれています。
長時間労働によって離職者や過労死が起きてしまうことは、その人個人やその家族にとどまらない国の大きな損失と言えます。
注目され始めているウェルビーイング(well-being)
精神的にも肉体的にもそして社会的にも満たされ良好な状態になることを意味する「ウェルビーイング(well-being)」という概念があります。
初めて用いられたのは、世界保健機関(WHO)設立の際の憲章で、これまで社会福祉や医療といった分野で使われていました。近年政府や企業においても、あり方や働き方を考える上で必要な概念として重要視され、働き方改革を進める上でも必要な取り組みであるとされています。
働き方改革を実現するための課題
1. 長時間労働の解消と有給消化の義務付け
過労死の訴訟がメディアで取り上げられるなど問題意識は高まっているものの、長時間労働がなくなっているわけではありません。 長時間労働を解消するために以下のような制度を導入するなどの検討が必要でしょう。
- 休日出勤の上限設定
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム
あわせて、有給休暇の取得率を高めたり、年間休日日数の改定のためにシフト勤務時間の見直しなども必要かもしれません。
2. 非正規社員と正社員の雇用形態の違いによる格差是正
アルバイトやパートタイマー・派遣社員・契約社員のように契約期間がある雇用形態を非正規雇用と言いますが、非正規雇用を締結する非正規社員と正社員では、労働条件や賃金などに違いがあることが不平等として問題視されています。
非正規雇用においても有給休暇を規則化するといった取り組みが必要でしょう。
また、人材不足解消として、医療や福祉、公共交通機関に関わる仕事、公務員や教育機関の社員など、社会生活を営む上で必要不可欠な業務に従事する労働者(エッセンシャルワーカー)の業種では、非正規雇用から正社員採用を行うことがなされていると言いますが、こういった動きがより積極的に行われることが期待されます。
3. 多様で柔軟な働き方の実現
少子高齢化で生産年齢人口の減少化が止まりません。
そのためには働きたくても働けない人たちへのサポートが必要でしょう。具体的には65歳以上の高齢者就労の支援や、出産・子育て、介護といった家庭の事情で退職を考える女性のキャリアサポートなどです。高齢で長時間勤務が難しかったり自宅をあける時間が作りにくい従業員が、働く時間や場所に拘らず働ける環境作りが求められます。
また、様々な事情がある人が気持ちよく働けるように、2つ以上の仕事を持つ「複業」や本業の空き時間に他の仕事を行う「副業」、本業の他に事業を営む「兼業」などの働き方も柔軟に受け入れられる企業が増えていくことが願われます。
働き方改革の大企業と中小企業の定義
働き方改革を推進するための働き方改革関連法案とは、働き方改革を実行することに関連する以下の労働法の改正の総称で、法律の名前ではありません。
- 労働基準法(労基法)
- 労働安全衛生法(安衛法)
- 労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(労働時間等設定改善法)
- じん肺法
- 雇用対策法
- 労働契約法
- 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)
労働法の改正に至っては、大きく11のポイントが挙げられます。そしてその改正内容の開始時期が大企業と中小企業では異なることから、ここで大企業と中小企業の定義を確認しておきましょう。
業種ごとに、「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する労働者の数」で判断され、以下が中小企業です。
- 小売業:5,000万円以下もしくは50人以下
- サービス業:5,000万円以下もしくは100人以下
- 卸売業:1億円以下もしくは100人以下
- それ以外の業種:3億円以下もしくは300人以下
そして、上記以外が大企業です。
働き方改革関連法案の概要と開始時期
それではここで、働き方改革関連法案の概要を確認していきましょう。全部で11のポイントがありますが、ほとんどの開始時期は以下となっています。
- 大企業:2019年4月~
- 中小企業:2020年4月~
ただし、6つ目に紹介する「月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ」においては、大企業における変更はなく、中小企業で2023年4月から大企業と同じ割増賃金率に引き上げられます。
1. 時間外労働の上限規制
健康の確保や仕事と家庭の両立などを目的に、時間外労働の上限は臨時的な特別な事情がなければ、月45時間・年360時間となります。
臨時的な特別な理由があり労使の合意がある場合でも、時間外労働は年720時間以内、時間外労働+休日労働は、月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内とする必要があります。 違反した場合は罰則(6ヶ⽉以下の懲役または30万円以下の罰⾦)が科され るおそれがあります。
2. 勤務間インターバル制度の導入促進
勤務間インターバル制度は、従業員の十分な生活時間と睡眠時間の確保を目的として、勤務終了から翌日の出社までの間に一定時間以上の休息期間(インターバル)を設ける制度です。労働時間等設定改善法の改正により、企業は「勤務間インターバル制度」の導入が努力義務となりました。
3. 年5日の年次有給休暇の取得
年次有給休暇は従業員の権利ではありますが、同僚や上司に対して取得することにためらいがあるといった理由で、年次有給休暇の取得率が低迷傾向にあると言われています。
労働基準法の改正により、10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、年に5日間の年次有給休暇を労働者に取得させることが義務づけられました。
4. 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
これまで月60時間を超える残業の割増賃金率は、大企業で50%、中小企業で25%と定められていました。2023年4月からは、中小企業においても大企業と同じ50%に引き上げられます。
5. 労働時間の客観的な把握
労働時間において、自己申告制をとっていることで、適切な労働時間の管理が行われていない現状がありました。
この度の労働安全衛生法の改正により、管理・監督者やみなし労働時間制が適用される労働者を覗く全ての労働者において、始業・終業時刻の確認・記録を行うなどで労働時間の適正な把握が義務付けられました。
6. 「フレックスタイム制」の清算期間延長
フレックスタイム制とは、労働者が自身で労働時間を決めることで効率的に働くことができる制度です。
この度の法改定で、労働時間の調整を行うことができる期間(清算期間)が、1ヶ月から3ヶ月に延長されました。これにより、これまでより柔軟な働き方の選択ができるようになりました。
7. 高度プロフェッショナル制度の導入
⾼度プロフェッショナル制度は、⾼度の専門的知識等を有し、職務の範囲が 明確で⼀定の年収要件を満たす労働者を対象とした制度です。
年間104⽇以上の休⽇確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を行うことで、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休⽇及び深夜の割増賃⾦に関する規定を適⽤しないというものです。
8. 産業医・産業保健機能の強化
労働安全衛生法の改正により、「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」の強化が求められるようになりました。
これにより、長時間労働やメンタルヘルス不調に陥っている労働者を見逃さず、ひとり一人の健康確保を目指します。
9. 不合理な待遇差の禁止
同一企業において、基本給や賞与などそのほかのあらゆる待遇において、不合理な待遇差を設けることが禁止されます。
これによって、非正規社員と正社員の間にある待遇差をなくし、どのような雇用形態であっても待遇に納得できることで柔軟な働き方を選択できることを目指します。
10. 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
パートタイム・有期雇用労働法の改正により、パートタイム・雇用期限がある社員・派遣社員といった、非正規雇用労働者に対して、通常の労働者との間の待遇差の内容やその理由について説明することが義務化されました。
11. 行政による事業主への助言・指導等や裁判外紛争手続(行政ADR)の規定の整備
パートタイム・雇用期限がある社員・派遣社員といった非正規雇用労働者に対して、均衡待遇・待遇差の内容待遇差の内容・理由に関する説明について行政による助言・指導等や星番外紛争解決手続き(行政ADR)の対象に含まれるようになりました。
働き方改革導入のメリット
働き方改革には、企業側と従業員側の双方にメリットがあります。
従業員のメリット
有給休暇を適切に取得できることで、趣味や好きなことからヒントを得た新しいアイディアが生まれる可能性があります。また、休日にリフレッシュできることで、仕事の生産性や業務に対するモチベーションのアップが期待できます。
労働時間が業務内におさまることで、集中力が高まり毎日の生活にメリハリがつくようになります。
フレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入すれば、通勤時間における満員電車での通勤がなくなりストレスから解放され心身の健康具合が向上するかもしれません。
ライフステージやキャリアチェンジにあわせて柔軟に仕事ができたり、転職の選択肢が増えるといった効果も期待できます。そのほか、非正規雇用から積極的な正規雇用が行われることや、雇用の違いによる格差がなくなることで公平に評価される機会が増える可能性があります。
企業側のメリット
社員が業務時間の短縮や休暇をしっかり取るようになることで、仕事におけるパフォーマンスが向上する可能性があります。
社員のモチベーションアップや社員ひとり一人が高い集中力を発揮することは、会社全体の士気向上や活気のある職場環境につながることは言うまでもありません。
ワークライフバランスを大事にする人が増えていることで、社員の健康を大事にしたり働き方に柔軟な考え方を持っている企業に対して好印象を持つ人も多いはずです。優秀な人材の確保において有利になると言えます。
また、働き方改革を積極的に実施している企業は、新しいことへのチャレンジに対して積極的な姿勢であることが期待でき、将来性を期待して入社を希望する人も増えるでしょうし、社員に寄り添う経営であれば、社員の仕事・会社への貢献度が高まる可能性があります。結果的に離職者を減らせることにもつながるでしょう。
働き方改革のデメリット
一方で、働き方改革を導入することをメリットではなくデメリットと感じる企業・従業員も少なくありません。そのため、働き方改革は、導入がなかなか進まないと言う側面も併せ持っています。
従業員のデメリット
限られた時間で業務を終わらせる必要が出てくることで、納期設定がある業務においては家に持ち帰って仕事をしたり、会社に隠れて残業を行ったりするような事態になりかねません。
またこのような状況であれば、1日の仕事量は変わらないものの働き方改革によって残業代の支給がなくなるとなれば、従業員にとってはデメリットとなってしまいます。つまり状況によってはストレスが増える環境になりうると言えるでしょう。
企業側のデメリット
残業を大幅になくすことで、スケジュールに合わせた納品が間に合わず未完の業務が出る可能性があります。
取引先にもし迷惑がかかるようなことがあれば、信用問題につながることも考えられます。
有給休暇の積極的な取得や業務時間の短縮化を進める際には、それに伴うスケジュール管理の調整や人員調整など付随する課題も同時に解消していくことが必要で、優秀な人材確保や専門家の活用など、コストアップも考慮する必要がありそうです。
働き方改革を意識して効率的な労働を
今後、ますます企業は従業員の労働時間を減らしながらも収益を保つことが求められ、効率化について高い意識を持つ必要があります。優秀な人材確保のためにも、従業員が生き生きと働ける労働環境づくりに力を入れることが求められます。
また従業員ひとり一人においても、同じように効率化が求められると言えるため、同僚・上司・会社を巻き込みながら高いパフォーマンスの維持を積極的に行っていくことが求められると言えます。
これまでの規則の見直しや環境を変えていくことは時間と労力を費やす必要がありますが、時代に合った労働環境にする働き方改革は健康経営への第一歩。企業側・従業員側ともに前向きに取り組んでいきたいものです。
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