• 健康経営アドバイザー
  • 2022.04.01

安全配慮義務とは?企業と従業員が果たすべき役割を解説

目次

企業のセーフティネット

コロナウィルス コロナウイルス感染症拡大により、新たに配慮が必要とされているのが安全配慮義務です。
企業の総務担当者や管理職の方ならば必須知識ではありますが、その詳細までは把握できていないという方も多いでしょう。
そこで今回は、安全配慮義務について解説します。

安全配慮義務とは?

就業規則 安全配慮義務は企業が、雇用者に対して病気やケガなど生命・身体の危険から保護するための環境を用意すべき事業主の義務です。
健康管理に関する会社の方針を明らかにし、従業員の生命・健康を損なうことがないように、全社的な視点に立った体制を作ることが求められています。
安全配慮義務は民法の基本的な原則から発展してきた義務ですが、労働契約法や労働安全衛生法にも次のような記載があります。

 

民法第1条第2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働安全衛生法第3条第1項(事業者等の責務)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

安全配慮義務の対象者は?

安全配慮義務 安全配慮義務の対象となるのは、会社の指揮・管理の下にある全ての労働者です。
  • 正社員
  • 直接雇用関係がある労働者(パート・アルバイトなど)
  • 直接の雇用関係がない派遣労働者・出向労働者・下請け労働者
企業側が負担する安全配慮義務の範囲
企業側が負担する安全配慮義務の範囲は次のような義務があり、拡大化の一途をたどっています。
①作業管理整備義務
作業管理測定義務(第65条)
作業の管理義務(第65条の3)
②衛生教育実施義務教育を実施する義務
安全衛生教育の実施(第59条)
③適正労働条件措置義務
長時間労働者に対する面接指導の実施義務(第66条の8)
④健康管理義務
健康診断実施義務(第66条)
健康診断実施後の措置義務(第66条の5)
ストレスチェックの実施義務(第66条の10)
⑤適正労働配置義務
中高年者等に対する配慮義務(第62条)
病者の就業禁止に係る措置義務(第68条)

コロナ感染予防対策における安全配慮義務

コロナ感染 新型コロナ感染拡大によって、新たに安全配慮義務上の課題が発生してませんか。

在宅勤務・テレワークの推進・時差通勤の推奨・職場内の換気・多人数の会議を避ける等、対策の必要性が考えられるでしょう。
例えば、濃厚接触者に休業を命じることなく出勤を許可していたために、職場内に感染が広まった場合は安全配慮義務違反となると考えられます。

また新型コロナ感染拡大により、テレワークや新しい生活様式で起こり得る身体的・精神的悪影響への対応も必要となるでしょう。
運動不足による生活習慣病の悪化が起こり、コミュニケーションの不足や単独業務によるうつ病発症などのメンタル不調も考えられます。
企業の総務担当者や管理職の方は、従業員の心身の健康に特に留意すべきでしょう。
厚生労働省が作成した「職場における感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」が参考になるので、ぜひご活用ください。
厚生労働省新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト

安全配慮義務の時効はいつ?

時効 安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求は、使用者に対して債務不履行責任(労働契約に基づく契約不履行)を追及します。
この責任を追及する場合、時効は5年間となり、時効の起算点は民法166条第1項により「権利を行使することができる時」からです。
※「権利を行使する」とは、法律用語で権利を持つ人が実際に権利を実行する意味です。

安全配慮義務は企業のリスクマネジメント

企業のリスクマネジメント 企業は法令遵守は当然ですが、一歩進んで従業員が安全で健康に働く職場環境に配慮する安全配慮義務の履行も大切です。
安全配慮義務を履行するには、労働災害発生の危険を予見し、その危険を回避する措置を講じることが必要不可欠と考えます。
常日頃から経営者および管理監督者が、職場環境の整備に目を向けてそれぞれの役割を果たすことが重要でしょう。

事業主の果たすべき役割

事業主は健康管理や労働衛生に関わる会社の方針を明らかにし、労働者の生命・健康的に働ける体制構築が求められています。
具体例は次のとおりです。
  • 健康管理に関する規程の整備や組織
  • 産業医や衛生管理等の選任
  • 衛生委員会の設置
  • チェック体制の確立
  • 管理監督者の研修制度の整備を構築
管理監督者の果たすべき役割は従業員の健康管理に努め、的確な安全配慮を行うことが求められています。
事業者に安全配慮義務違反が認められるか否かの判断においては、管理監督者の義務違反も判断です。
事業者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任とは別に、管理監督者個人の不法行為に基づく損害賠償責任が問題にされることがあります。

例えば、長時間労働と上司からの厳しい叱責が原因で、労働者が自殺するのに至った事案です。
以下の義務を怠ったとして、事業主に損害賠償責任を認め、上司個人の不法行為に基づく損害賠償責任も認めています。
①管理監督者は、労働者の業務の量等を適切に調節するための措置を取る義務
労働者の時間外労働を正確に報告して増援を要請する
業務内容や業務分配の見直しを行うこと
②労働者に過度の心理的負担をかけないよう配慮する義務
労働者における指導に際して、心理状態・疲労状態・業務量や労働時間による肉体的・心理的負担も考慮する必要があった

事業主は従業員の健康障害発生により、生産性低下と損害賠償責任を負担するリスクを抱える可能性があることを留意すべきでしょう。

過重労働やハラスメントが原因とする過労自殺などが発生した場合には、労働災害にも認定され高額な損害賠償を請求される事態にもなりかねません。
企業内におけるモチベーションの低下や対外的な企業イメージの失墜による甚大な損失を被ることにつながります。
特に中小企業においては、そのような事態が起きた場合は、事業の継続が不可能となるおそれが生じます。
安全配慮義務違反にならないよう労務管理を行っておく必要がありますが、任意労災保険に加入するなどしてリスク管理をしておくことが大切でしょう。

従業員の果たすべき自己保健義務

健康管理 事業主のみならず従業員にも自己保健義務があります。
自己保健義務とは、従業員自身のみずからの健康状態に留意し、必要に応じて医療機関を受診して管理する義務です。
労働者本人は事業主側が実施する安全配慮義務の履行につき、協力を行うことが求められています。
自己保健義務は、事業主の負うべき安全配慮義務の範囲を限定する意味を持ち、賠償責任についての減責事由ともなり得るものです。
自己責任保健義務違反を理由に減責を認めた事案もあります。
長時間労働に加え、労働者が過度のアルコールを急激に摂取していたことによって、死亡するのに至った事案では次のように判決されました。
就労後の時間を適切に使用し、できるだけ睡眠不足解消するように努めるべきであったとしています。
就寝前にブログやゲームに時間を費やし、自ら精神障害の要因となる睡眠不足を増長させたとして企業の3割の減責を認めています。
(フォーカスシステムズ事件・東京高裁2012年3月22日判決)
従業員は自己保健義務を果たすことにより、事業主の安全配慮義務に協力する義務があります。

従業員の自己保健義務には、次のような義務が挙げられます。
①健康診断受診義務
会社が実施する健康診断を受診する義務があります。
②自覚症状等の申告義務
自覚症状の有無がある場合、可能な限り適正な申告が求められます。
自覚症状は本人から申告がなければ、会社による対応が難しくなるため申告義務があります。
③健康管理措置への協力義務
労働者には使用者が実施する健康管理措置に協力する義務があります。
健康障害を防止するために必要な一定の施設や用具保護具(安全帽・安全靴など)を使用することになっている場合
④療養専念義務
療養のため休業している場合、療養中に疾病を増悪させる行為をしたり、回復を妨げる行為をしたりすることは自己保健義務に違反します。
企業は労働者に対する安全配慮・健康配慮を進めつつ、労働者の自己保健義務について就業規則の整備や社員教育の機会などを通じて周知啓発していくことが必要となるでしょう。

まとめ

企業と従業員の協力 今回は「安全配慮義務」について解説しました。
安全配慮義務とは、安全かつ健康に労働するために、企業と従業員の両者が負う義務です。
企業は法令遵守のもと、労働者の生命・健康を守ることを基本とし、従業員はみずからの健康状態に留意し健康的に働く義務があります。
安全配慮義務の遂行は、労使一体となって事故や不祥事を未然に防ぐことになり、企業の発展と従業員の幸せに寄与するでしょう。
Facebookシェア twitterシェア Lineシェア
Facebookシェア Twitterシェア Lineシェア

関連マガジン

問い合わせ
各種取材やサービスに関することなど、
お気軽に問い合わせください。