• 健康経営アドバイザー
  • 2022.04.12

過労死ラインとは?見直されたのは睡眠時間

目次

過労死ライン20年ぶりに見直し

労災基準の過労死ラインが20年ぶりに見直されました。
過労死は社会的に問題となっており、メディアでも大きく取り上げられています。
どのような対応が企業に必要なのか、経営者や管理者は把握しておきたいところでしょう。
そこで今回は、過労死ラインについて解説します。

過労死ラインとは?

過労死ライン 長時間労働による病気や死亡を認定する労働災害の基準です。
過労死とは、労働災害であり、働き過ぎによる過労のため死亡にいたることです。
以下のとおり定義づけられています。

過労死等防止対策推進法第2条

  • 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
  • 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
  • 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
過労死等防止対策推進法とは、過労死や過労自殺の防止を目的とし、その対策に関する基本理念や責務、施策推進を求める法律です。

過労死ライン見直し

過労 2021年9月に20年ぶりに過労死ラインが見直されました。
働き方の多様化や職場環境・最新の医学的知見を踏まえて労災認定基準に関する専門検討会によって認定基準の改正が行われました。
これまでは長時間労働に対する過重業務を重視していましたが、「労働時間以外の負荷要因」も労災認定基準に重視されます。
過労死認定基準は以下の通りです。
1.長期間の過重業務評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定を明確化(業務との関連性を評価)
  • 発症前1ヵ月間に100時間の時間外労働
  • 2~6ヵ月間平均で月80時間を超える時間外労働
  • 月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる
2.労働時間以外の負荷要因を見直し(新たに4つ追加)
  • 休日のない連続勤務(新たに追加)
  • 事業場外における移動を伴う業務(新たに追加)
  • 勤務間インターバルが短い勤務(新たに追加)
  • 身体的負荷を伴う業務(新たに追加)
  • 不規則性のある勤務
  • 拘束時間の長い勤務
  • 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
  • 出張の多い業務
  • 他の事業場外における移動を伴う業務
  • 心理的負荷を伴う業務
  • 温度環境のある作業環境
  • 騒音のある作業環境
  • 時差のある作業環境
3.関連性が強いと判断できる場合を明確化
業務と発症との関連性が強いとされる短期間の過重業務や異常な出来事と判断できるケースとして例示されました。
「発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合」など詳しく例示されています。
さらにこれまで以上に重視される「労働時間以外の業務負荷要因」についてより詳しい情報は、厚生労働省のサイトより確認しておくと良いでしょう。
出典:脳・心臓疾患の労災認定基準の改正について

4.対象疾病に「重篤な心不全」を追加
①脳血管疾患
  • 脳内出血(脳出血)
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 高血圧性脳症
②虚血性心疾患等
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心停止(心臓性突然死を含む。)
  • 重篤な心不全(新たに追加)
  • 大動脈解離
過労死等防止対策推進法では、事業主に国や地方公共団体が実施する過労死等の防止対策に協力するよう努めることを義務づけられています。経営者や人事担当者はあらかじめ留意する必要があるでしょう。
企業で行うべき過労死防止といえば「長時間労働の見直し」が考えられますが、原因はそれだけではありません。
過労死は、労働時間の長さや働き方や職場環境・仕事内容・人間関係などが原因であると考えられています。
心身の疲労の蓄積は脳や心臓に負担がかかり、精神疾患の発症につながります。
企業はこれらを対策・解決する取り組みが重要です。

過労死ラインの根拠は睡眠時間

睡眠 労働災害の認定では、時間外労働や休日の労働時間が重要視されがちですが、認定基準は「蓄積された疲労が解消できる睡眠時間を確保できているか」が根拠となっています。
厚生労働省が示した報告書には多岐に渡って、さまざまな医学的知見を踏まえた疫学調査が行われ、過労死に対する調査などがまとめられています。
出典元:厚生労働省 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書

長期間労働や睡眠不足によって疲労の蓄積が血圧の上昇などの要因となり、1日4〜6時間程度の睡眠が確保できない状態が継続していた場合、脳卒中や心筋梗塞を発症などの病気のリスクが高まることも示されています。
過労死ラインとなる時間外労働を100時間とした場合は、1日の生活の中で時間外労働ができる時間数※に1か月の平均勤務日数21.7日を乗じた概数です。
1か月当たりの時間外労働が80時間だと、睡眠を6時間とした概数とされていることから過労死ラインは睡眠時間といえるでしょう。
※時間外労働ができる時間数とは、24時間から生活を営む上で必要な睡眠(5時間)・食事等・仕事を引いた時間数です。
人によって必要な睡眠時間は違うため、一概には言えませんが1日の睡眠時間が5時間以下は要注意といえるでしょう。

健康経営でも重要視している過労死と睡眠の影響

健康経営 社員の仕事・生活の質を向上させるためにも、睡眠の質を高める生活習慣を促すことは健康経営にとって重要な取り組みです。
良質な睡眠につながる生活習慣は身体とこころの緊張を解くために大切であり、健康維持を図るために重要でしょう。
プレゼンティーズムによる生産性損失では、メンタルが生産性の4分の1から3分の1に関わっているとされ、もっとも大切な要因でしょう。
社員の快適な睡眠は健康経営にとっても注目しておきたいポイントです。
睡眠は、メンタル面への作用ばかりでなく、身体の機能そのものに影響します。
睡眠不足の人・眠りが浅い人は自律神経のバランスが崩れ、血流の流れが悪化し脳をはじめ身体の機能が低下します。
睡眠不足によるストレス反応は以下の通りです。
ストレス反応:疲労
心理的反応:抑うつ・職務不満足
生理的反応:血圧・心拍上昇短眠
行動的反応:事故・疾病・休業
不健康行動:喫煙・飲酒食事・運動不足・過食による肥満

特定健診を受ける際の質問票には「しっかりと眠れていますか」という問いが設けられています。

一般的に年齢が上がるにつれて眠りは浅くなるものですが、これに働き方やストレスが加わることでさらに眠りの質を低下させる要因です。
働く意欲や生産性に大きな影響を与えるストレスは、メンタル面と関係が深いとされている睡眠です。
そのため健康経営の取り組みでは、具体的な取り組みが行われています。
従業員自身の生活習慣の見直しが重要となり、ヘルスリテラシーセミナーにおいて睡眠指導を行っている企業もあります。
例えば、交換勤務で時間が不規則で帰宅時間が遅く就寝直前に食事をすると、胃腸が働かなければならず、眠りが浅くなり、睡眠の質が悪くなってしまいます。
食事は就寝の2〜3時間前を意識し、分食で就寝近い時間帯には野菜など軽いものにとどめることも一案でしょう。

また仕事上で長時間パソコン画面を見ているうえに、帰宅してからもテレビや携帯を見続けることで脳が覚醒してしまい、眠りが浅くなるケースもあります。
就寝前に最低でも1時間は光源を見ることは控えるといった生活動線にしてしまうことも睡眠の質を高めるうえで大切でしょう。
寝る直前の食事や飲酒は睡眠の質を低下させますが、仕事のストレスが良質な睡眠の妨げになることもあります。
食後はゆっくりお風呂に入り、深呼吸や軽くストレッチを行うことでリラックスしながら入眠できるでしょう。
このように健康経営では、ヘルスリテラシーセミナーを設け従業員の生活習慣の変容にも着手しています。
過労死防止のために企業の法令遵守と従業員個人のストレスを溜めない健康的な生活習慣の推奨が大切です。

まとめ

過労 今回は「過労死」について解説しました。
過労死は長時間労働だけでなく、その根拠となる睡眠にも注視すべきと言えます。
睡眠は、身体とこころをリフレッシュさせるため、健康に働くために必要不可欠です。
過労死は大切な従業員を失い、企業のイメージ低下につながります。
ぜひこの機会に過労死に対する健康経営の取り組みを参考にしてはいかがでしょうか。
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