- 健康経営
- 2021.12.24 (最終更新日:2022.04.06)
健康経営とHSPの関係とは?HSPの特徴と働きやすい職場作り
ストレス社会とHSP
わたしたちは日々多くのストレスに囲まれています。
仕事や家事に追われる社会人はもちろん、最近ではSNSの普及に伴って若い世代もストレスを抱えやすい世の中です。
その中でも一際、周囲からの刺激に敏感で、気疲れしやすく生きづらいなと感じやすい人たちがいます。
「HSP」と言葉をご存じでしょうか。
今回は彼らの特徴や向き合い方を学び、HSPへの理解を深めていきましょう。
またHSPの人が職場にいる場合、どう接するか、彼らのために何ができるかといった環境づくりも考えていくことで、より多くの従業員が働きやすい就業環境ができ、健康経営にも大きく貢献します。
離職率の低下、優秀な人材の確保につながる重要な要素であるため、経営層や管理職の方々もぜひ参考にしてください。
HSPとは?
早速ですがHSPとはどのようなものか、よく比較されるものと合わせて見ていきましょう。
概要
HSPは「Highly Sensitive Person」の略であり、「人一倍、繊細な人」「非常に敏感な人」という意味があります。
90年代初め、HSP研究の第一人者である心理学者のエレイン・アーロン博士により、「人の気質」を表す名称として名付けられました。
HSPは決して珍しいものではなく、人口に対して20%、5人に1人の割合で存在し、また人間に限らず鳥・魚・犬や猫・霊長類など100種類以上もの動物にも同じ気質が見られるため、この「繊細さ」という気質はある種の生存本能、「生き残るために必要な戦略の一つ」と考えられています。
とはいえ日常生活において不便なことも多く、気疲れしやすい、生きづらいと感じる人が多いのも事実です。
外界からの刺激、体内の刺激に非常に敏感なため、特に馴染みのない環境にいると、他の人は感じない些細な刺激にも神経が高ぶることで、興奮状態が長引いてしまい疲れやすいという傾向があります。
発達障害との違い
HSPは発達障害と混同されやすいのですが、両者は大きく異なります。
発達障害は精神疾患の診療基準における「DSM」の中で、「神経発達症群」として診断基準がはっきりと明記されている精神疾患ですが、HSPはあくまで気質であり心理学的な概念にすぎないため、精神医学上でHSPが該当するものはありません。
うつ病との違い
刺激に敏感であらゆることに気づくことで日常ストレスを抱えやすいHSPは、「眠れない」「疲れやすい」「気分が落ち込む」といった「うつ病」に似た特性があると言えますが、こちらも医学的に全く異なるものです。
不調の原因が先天的か後天的かという違いが分かりやすく、HSPは「背が高い」「目が大きい」など、身体的特徴と同様に生まれつき持っている気質なのに対し、うつ病は人間環境や周囲の環境といった外的要因からくるストレスで発症する病気です。
しかし異なる2つといっても、HSPの人がストレスを溜めやすいことは事実であり、解消が上手にできなければうつ病になるリスクは高いため、両者は相関関係にあると言えるでしょう。
「DOES」という4つの特徴
HSPの人には、それぞれの言葉の頭文字を取った「DOES」と言われる4つの特性があり、またこれらは一つでも欠けるとHSPと言えないともされています。
それぞれ具体例も挙げながら見ていきましょう。
Depth of processing
考え方が複雑であり、何事も深く考えてから行動する傾向があります。
物事に没頭するため他の人が気付かないようなところにも気付ける上、間違ってしまうとどうなるかがよく分かるため比較的慎重で、決断や行動に時間がかかることも特徴です。
- 一を聞いて十のことを想像・考えられる能力がある
- 調べ物をするとかなり深くまで掘り下げるため周囲に驚かれる
- お世辞や嘲笑が分かってしまう
- 浅い人間や話が嫌い
Overstimulation
HSPでない人と比べると、物事から受ける刺激が非常に強く、刺激が多いと過敏に動揺しやすくなり疲れやすい傾向があります。
何に対して敏感かは人によって異なるため一概には言えません。
- 大きな音、騒音が苦手
- 人ごみが疲れる
- 友人との時間も、楽しいが気疲れもしやすく、帰宅後はドッと疲れがでる
- 人の些細な言葉も気になり傷ついてしまう
- 映画や音楽、本などあらゆる芸術作品に対しても感動しやすく泣きやすい
Empathy and emotional responsiveness
脳科学の研究によると、HSPの人の脳は「ミラーニューロン」の働きが活発であると示されています。
これは他の人のしていることや感じていることがまるで自分のことのように感じる神経細胞なのですが、つまりHSPは共感力が非常に高く他人の気持ちが理解しやすいため、「直感が鋭い」「感情移入しやすい」「想像力が豊か」といった特徴があります。
- 怒られている人を見ると自分のことのように傷ついたり、ストレスでお腹が痛くなったりする
- 同情や共感が強く涙もろい
- ニュースで見る災害や事件、悲しいストーリーの映画や本などに感情移入し傷つき号泣する
- ちょっとした仕草や目線、声色で相手の機嫌や思っていることが分かる
Sensitivity to subtleties
あらゆる感覚が鋭いため、些細な刺激に対しても感受性が高く、髪型や服装の変化や、場所の少しの変化、笑われたことや励まされたことなど、さまざまなことに気が付きます。
体内の刺激にも敏感なため薬が効きやすい面もあり、また少しの刺激にも痛みを感じやすく、病気ではないかという心配が付きものです。
- 冷蔵庫の機械音や時計の音といった日常の環境音が気になる
- 強い光、日光の眩しさが苦手
- 体臭や口臭、タバコの臭いなどに敏感
- 洋服のタグのチクチクが気になる
- 第六感が働き、わりとよく当たる
HSS型HSPとは?
ここで、HSPの中でもどこか矛盾しているような特性を持つ、「HSS型HSP」という人たちをご紹介します。
概要
敏感で傷つきやすく、共感力や直感力、想像力が高い人たちをHSPと呼びますが、そのうちの3割を占めるのがHSS型です。
HSS型は「High Sensation Seeking」の略であり、比較的内向的で静かな環境を好むHSPとは反対に、「刺激の探求」というむしろ外交的で好奇心が強いタイプの人たちを指します。
つまり「非常に敏感でありながらも刺激を求めてしまう」という矛盾しているような特性を持つ人たちがHSSです。
特徴
この矛盾に悩むのがHSS型の特徴で、新しい情報や経験を求めて外出し多くの人と関わるが、結局敏感であるために傷ついてばかりという傾向があります。
対照的な特性を持つHSSの具体例を見てみましょう。
- 刺激が欲しいが、外に出ると疲れる
- 周りからは元気で外交的、社交的と見られるが、本当は違う
- 冷静に見えるが、内心はイライラしたりドキドキしたりしている
- わりとすぐに仲良くなるが、少しすると距離ができる
- 自虐はするが、周りからいじられると傷つく
- 大胆だが、小さなミスを後悔する
- 好奇心が強いが、同時に警戒心も非常に強い
- 自己肯定感は低いのに、どこか変な自信もある
このように矛盾を感じるHSS型ですが、元々のHSPが安心できない今の環境に適応するために身につけた特徴とも言えます。
とはいえベースはHSPであり傷つきやすく繊細な気質を持っているため、ある意味ただのHSPよりも生きづらいと感じる人もいるかもしれません。
HSPの簡易セルフチェック
それでは自身にHSPの傾向があるか知りたい方のために、簡単にできる自己診断テストがあるためご紹介します。
「はい」か「いいえ」で回答するのですが、「何個以上でHSP」というものではなく、「各項目で当てはまるのはHSPの傾向がある」という目安でやってみてください。
- 大きな音や雑然とした光景など強い刺激が不快で、わずらわしいと感じる
- 忙しい日々が続くと、暗い部屋やベッドなどのプライバシーを守れる場所へ逃げ込みたくなる
- 他人の気分に左右される
- 短時間にしなければならないことが多いと、気が動転してしまう
- 生活や環境に変化があると混乱してしまう
- 子供の頃、親や教師から「内気だ」「敏感だ」と見られていた
- 音楽や美術、芸術に深く感動する
- 繊細な香りや味、音や音楽が好き
- 一度にたくさんのことを頼まれるとイライラする
- ビクッとしやすい
- 最近、睡眠不足や睡眠過多である
- 一日中憂鬱な気分が続く
- 元々興味のあったことに興味を持てなくなってきた
- 自殺を考えてしまうことがある
このチェックにより、HSPの傾向がある、あるいはうつ病の危険があるかもと思った方は、心療内科や精神科の受診をおすすめします。
HSP自体は病気ではないため病院で治療ということはありませんが、カウンセラーへの相談で心を軽くすることは可能ですし、もしうつ病となればしっかりと診察・通院が必要です。
自身の性格や特徴でどこか気になる点があれば、ぜひ一度セルフチェックをしてみましょう。
HSPの人との向き合い方
病気ではない、その人の持つ気質であるHSPとはどう向き合っていけばよいでしょうか。
特に職場というのは、仕事にも人間関係にもストレスを感じやすい環境です。
職場環境を意識することでHSPの人も働きやすい職場を作れるため、健康経営的な視点から、HSPとの向き合い方を考えていきましょう。
健康経営による環境作り
健康経営はその名のとおり従業員の健康に着目したもので、身体はもちろん心の健康も考慮します。
つまり従業員がストレスを抱えず働きやすい環境を整えることで、仕事の生産性が上がり、会社の業績アップも期待できるという考え方です。
今回HSPを考えるにあたり、「心理的安全性」というキーワードが大切になってくるでしょう。
職場のメンバー一人ひとりが気兼ねなく発言でき、自然体で安心して働けるような環境を指すのですが、刺激に敏感でちょっとした言葉も気にしてしまうHSPにとって、人間関係が良好な職場というのは必須項目です。
困ったときに気軽に相談できる環境、ミスをしても素直にすぐ報告できる関係性というのは、仕事や人間関係でストレスを感じにくく働きやすい職場と言えます。
また、そもそも人との必要以上のコミュニケーションが苦手だったり、周りがせわしなく動いていたりする環境は刺激が多く疲れやすいため、オフィス内に個人の作業ブースがあると安心できるかもしれません。
自分だけ特別扱いされていると思わせないために、全員が平等に使える場所であることも大切です。
HSPの人を意識した職場作りは、結果的に従業員全員にメリットがある、まさに健康経営につながると言えます。
まとめ
HSPという人が生まれながらに持つ特性についてお話ししてきました。
HSPの人たちは日々、他の人たちよりもはるかにストレスを感じながら生きていますが、先天的なものであり病気とも異なるため、付き合い方が難しいのも現実です。
しかしHSPの人はデメリットばかりではなく、日常や仕事にも活かせることが多くあります。
周りが気付かないことに気付いて気配りができたり、自分のことのように共感してくれたりすることで、周りから好かれやすい面もあるでしょうし、仕事では想像力の高さを活かして作家やライターといった創作活動や、感受性や共感力の高さからカウンセラーにも向いているでしょう。
自身の特性も見方を変えて上手く活用できれば大きな武器になります。
HSPで悩む人、さらには似たような性格・特徴の人が周りにいる人にとって、この記事が何か参考になれば幸いです。
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