- 健康経営
- 2021.11.10 (最終更新日:2022.03.26)
健康経営にも役立つヘルスリテラシーとは?概要と企業ができる取り組み
今こそ大切にしたいヘルスリテラシー
「ヘルスリテラシー」という言葉をご存じでしょうか。
リテラシーといえば情報リテラシーという言葉もあり、これを健康に置き換えたものと言っていいでしょう。
病気や薬の効能など、健康に関するあらゆる情報の中で、何が正しく、何が間違っているかを正確に判断し活用していくことがヘルスリテラシーです。
そしてこれは、新しい未知のウイルスに対して情報が錯綜しているコロナ禍の今こそ非常に重要と言えます。
またこの概念は企業にとっても社員の健康管理に関わる健康経営に有効な点で深い関わりがあります。
今回はヘルスリテラシーについてその概要と日本の現状を理解し、健康経営とどう関わってくるのかを見ていきましょう。
ヘルスリテラシーの概要
まずヘルスリテラシーの定義ですが、WHOによって「健康情報にアクセスし、理解し、使える能力」と定められています。
分かりやすく言えば「正しい健康情報を選びとり、意思決定をし、自らの健康を維持・向上させる能力」のことで、すなわち健康力です。
健康に関する情報は有益・無益問わず世の中に溢れており、なおかつ人によって合う合わないも異なってくるため、一人ひとりが本当に必要な情報を見極め、厳選して実践することが必要になります。
一般的に見て健康にいい行動をとるのではなく、「自分にとって」いい行動を選んで実践することこそがヘルスリテラシーです。
自身の健康管理能力であるヘルスリテラシーですが、その定義に含まれる要素をそれぞれ見ていきましょう。
入手
無限にある情報源から正確な情報を探し出す能力です。
単純ながらも非常に困難な作業であり、例えばGoogle検索で「コロナウイルス、対策」と調べた場合、実に5億4千万件ものサイトがヒットします。(2021年10月27日現在)
これだけの情報を全てチェックするのは到底不可能な上、それらの真偽を確かめることは非現実的と言えるでしょう。
そのため闇雲に情報収集するのではなく、初めから信頼できる情報源を頼って、そこに絞って収集するのがおすすめです。
例えば厚生労働省のような公的機関のサイトが一番安心でしょう。
病気の時は不安で冷静さを欠いてしまい、必死にあらゆる情報を集めようという心理も働きます。
そこで膨大な情報に飲み込まれてしまわないよう、情報の断捨離をする意識は持っておきましょう。
理解
選んだ情報を正確に理解する能力です。
ここで気をつけないといけないのは、情報というのは時に、数字のトリックにより見栄えが
良く見えたり、人の心理を上手く利用して消費者にアピールしていたりするということです。
よく見かける具体例をいくつか紹介しましょう。
フレーミング効果 | 「ビタミンC1g」と「ビタミンC1000mg」では、ぱっと見て1000mgの方が大きく見え、たくさん成分が入っているように錯覚してしまいます。 |
シャルパンティエ効果 | 「鉄1kgと綿1kgではどちらが重いか」と聞かれた時、普段の思い込みや先入観により、一瞬鉄の方が重いと勘違いしてしまうかもしれません。 |
権威への服従心理 | 例えば「教授」や「博士」、「先生」といった肩書きを持つ人が何か発言をした場合、特に肩書きのない他の人が発言した場合よりも、内容が全く同じだとしても信頼度が高い傾向にあります。 |
ウィンザー効果 | 元々口が上手く商売上手なセールスマンの謳い文句よりも、利害関係が全くない第三者の口コミの方が、情報に信ぴょう性が増します。 |
これらのようなトリックや心理効果は、脳の仕組みを利用したものであるため抗うのは困難です。
「人の脳は騙されやすいものだ」という前提を持った上で、情報の理解に努めましょう。
評価
情報が信頼できるかを評価する能力です。
例えばメリットばかりが載っていて、副作用やコストといったデメリットに触れていないものは注意が必要です。
また「医療の不確実性」という言葉がありますが、どんなに臨床試験で有効性が証明されていても全員に100%効果があるかどうかは分かりません。
「治療効果100%」や「絶対治る」といった文言は信ぴょう性に欠けると捉え、あらゆる情報に対し多少批判的に吟味する姿勢が大切です。
活用
選び取った情報を基に、決断と行動の意思決定をする能力です。
医療現場で実際に行われている「科学的根拠に基づいた医療行為」がそうですが、それに加えて「必要な費用・時間・労力」や「したいこと・好みや価値観」といったことも判断材料となり、それによって選択される行動が変わってきます。
例えば「降水確率30%」に対して傘を持っていく人・いかない人で分かれたり、その日の気分によってその意思決定が変わってきたりするのと同じです。
同じ正しい情報を得られてもその後の意思決定は人によって異なるため、情報の「入手・理解・評価」までは一定の正解がある中で、「活用」に関しては絶対の正解が存在しないと言えます。
日本におけるヘルスリテラシー
健康管理においても非常に大切なヘルスリテラシーですが、日本ではどれほど浸透しているのでしょうか。
結果から言うと、日本のヘルスリテラシーは海外と比べて低い傾向にあります。
例えば「気になる病気の治療について情報を見つけるのは?」というような質問を複数用意し、それに対して4段階で回答してもらい、合計50点満点で点数化した時に、欧州8カ国の平均点が34点、日本の平均点は25点という結果になりました。
また直近ですが、コロナ禍において「抗生物質がコロナに有効」というデマが日本で広まったこともあります。
抗生物質は細菌に有効なのであってウイルスには効かないため、コロナにも、風邪の大半やインフルエンザにも効きません。
抗生物質について正しく理解している割合は日本ではわずか23%に留まる一方、スウェーデンは74%、フランス53%、イギリス49%となっています。
デマが広がってしまったのも、日本人の抗生物質に対する理解が低いことに起因するのではないでしょうか。
自身の健康を守るためにも、ヘルスリテラシーは非常に重要なものです。
日本のヘルスリテラシーが低い理由
各国と比べ日本がこんなにも低い原因は何なのでしょうか。
決して日本人一人ひとりの努力不足ではなく、そもそも学校教育の中で健康について学ぶ環境が恵まれていないという側面があり、世界と比べても日本の健康教育は遅れています。さらに大きな要因として、プライマリ・ケアの不十分さがあります。
これはいわゆる「かかりつけ医」の存在であり、日本では健康や病気について何でも相談できるような場が身近に十分整備・確保されていません。
例えば「病気になった時、専門家(医師・薬剤師・心理士)に相談できる場を見つけることは?」という質問に対して、EUにおいては1割しか「難しい」という回答がなかったにもかかわらず、日本では6割もの人が「難しい」と回答しています。
実際相談できる場としてのプライマリ・ケア医は日本で現状約900名しかおらず、非常に少ないことが明確です。
自身や家族の健康について把握していて、親身になって共に情報を入手・評価・活用してくれるプライマリ・ケア医は、不安の中で進むべき道を示してくれる灯台のような存在と言えます。
わたしたち一人ひとりが、近所にそういった「かかりつけ医」を持つ意識が非常に大切です。
ヘルスリテラシーが低いことによるデメリット
ヘルスリテラシーが低いとどういった悪影響を生むのか、いくつか例を挙げてみましょう。
まず健康に関する情報の是非を正しく自分で判断できないため、ネットの記事、テレビやSNSの情報を無条件で信じる恐れがあり危険です。
誤った情報を鵜呑みにして行動すれば、深刻な健康被害を受けるかもしれませんし、それに伴い不必要な出費もかさんでしまいます。
また健康に対して関心が低いため、予防接種や健康診断をないがしろにしがちです。
そのため病気の初期状態で気付けず症状が重くなる傾向があるため、救急サービスを利用しやすくなったり、死亡率が高くなったりしてしまいます。
さらに病気や治療法、薬に関する知識が少ない分、ラベルやメッセージを読み取れない、自身の不調や不安について医療関係者に上手く伝えられないという面もあります。
健康経営とヘルスリテラシー
最後にヘルスリテラシーと健康経営の関わりですが、健康経営自体が社員の心身の健康に対して働きかけていくものであり、社員個人のヘルスリテラシー向上が企業の健康経営に直結します。
健康経営のゴールは「自己健康管理能力と仕事の生産性、どちらも高い人材を育成すること、つまり組織のヘルスリテラシーの向上である」と言われており、健康経営を推進することは社員・企業・社会の持続性につながります。
では実際に企業は、社員のヘルスリテラシー向上に対してどのような取り組みができるか見ていきましょう。
現状を把握する
推進するためにはまず現状の確認です。
ヘルスリテラシーという言葉自体あまり馴染みがない社員も多いため、企業がいかに社員一人ひとりに対して手助けをできるかが大切になってきます。
対策を考えるためにまずは現在地を知りましょう。
健康と向き合う機会を作る
日頃疲れていても、回復や健康維持に対して本気で取り組む人は、意識しない限りなかなかいないものです。
健康診断やストレスチェックを行い、自身の健康と向き合い、医師や産業医などから助言をもらい、具体的な行動を示してもらうのが有効です。
健康関連の情報を提供する
普段から自分で健康について調べたり行動したりしない人の方が多いため、企業の方から情報提供をすることが大切です。
社内報や掲示物、社内研修などを使い、健康にいい食事のレシピや良質な睡眠の方法などを社員に伝えていきましょう。
相談先を用意する
かかりつけ医の話と同じで、身近に相談できる医療従事者がいるだけで安心感が違います。
相談先が明確であれば尋ねるハードルが低く済み、健康に関する些細なことも聞きやすく、個人のヘルスリテラシー向上につながるでしょう。
まとめ
ヘルスリテラシーがいかに大切かお分かりいただけたでしょうか。
健康に限った話ではありませんが、知らない・分からないというのは場合によって危険な面もあります。
現在のコロナ禍で、悪質なデマに踊らされて健康を損なったり、誤った情報をさらに拡散したりしないためにも、情報の取捨選択、正しいか否かの判断をしっかりできるよう、日頃からリテラシー向上に努めていきましょう。
企業にとっても社員の健康こそが経営において最も大切です。
健康に対する意識改革に親身に関わっていき、組織全体でヘルスリテラシーが向上できるよう取り組んでください。
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