• 健康経営
  • 2021.04.23 (最終更新日:2022.04.06)

ヘルスツーリズムの概要。コロナ禍でも需要が高まる旅行と企業の関係

目次

ヘルスツーリズムとは何か

運動 健康 森林

ヘルスツーリズムの目的

旅行という日常とは異なる楽しみの中で、健康増進を目指すことをヘルスツーリズムといいます。旅行をきっかけに、日常生活でも健康を意識した行動を続けることを目指すのです。健康に対して無関心だった状態から、ヘルスツーリズムをきっかけに関心を持つようになる利用者も多くいます。NPO法人が運営している「日本ヘルスツーリズム振興機構」では、ヘルスツーリズムのことを以下のように定義しているのです。

「健康・未病・病気の方、また老人・成人から子供まですべての人々に対し、科学的根拠に基づく健康増進(EBH:Evidence Based Health)を理念に、旅をきっかけに健康増進・維持・回復・疾病予防に寄与する」もの

引用:NPO法人 ヘルスツーリズム振興機構より


ヘルスツーリズムを大まかにカテゴリー分けすると、疾病予防と医療インバウンドになります。疾病予防は健康増進が目的であり、医療インバウンドは外国人患者の受け入れを促進するのが目的です。日本では2種類のカテゴリーを異なる分野と認識しています。しかし欧米や東南アジアの一部では、一貫性のあるものとして取り扱う例もあるのです。

主に会社の福利厚生や女性が利用している

ヘルスツーリズムは、会社の福利厚生での利用や富裕層の女性の利用が多いと言われています。なぜなら一般的な旅行プランに追加されるものが多く、料金が高額になるからです。所得の高い層の方が低い層よりも、ヘルスリテラシーが高いことも原因の1つと考えられます。コロナ禍で旅行などの需要は落ち込んでいると考える人は、多いのではないでしょうか。しかし健康問題や安全対策を意識せざるを得ない状況になったことと、密を避けられる空間を求めるようになったことにより、ヘルスツーリズムの需要は高まっているのです。新たな需要によって、今後ヘルスツーリズムの市場は拡大する可能性があります。

ヘルスツーリズムの歴史

ヘルスツーリズムは最近始まったものではありません。病気治療が目的の温泉利用は、古代ギリシャ時代から行われていたと言われています。日本では江戸時代、農業の仕事が暇な時期に温泉で疲れを癒していたようです。今までのプランは温泉地に頼りがちでしたが、近年は温泉地に頼るだけではなく、土地の文化や歴史に触れられるようなプランも増えています。

日本での活動

ヘルスツーリズムは地域の特性を活用したプランを提供しやすいので、全国に広がっています。北は北海道から東北を中心として、中国地方、九州・沖縄にも広がっているのです。ヘルスツーリズムは健康を目的とした旅行だということが、周知されつつあります。また、「ヘルスツーリズム認証」という認定制度もあるのです。ヘルスツーリズム認証はNPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構、日本規格協会ソリューションズ株式会社、一般社団法人日本スポーツツーリズム増進機構の3団体が運営しています。観光商品を客観的に評価し、利用者が安心してサービスを受けられることを目指すのです。

世界での活動

欧州のヘルスツーリズムは歴史があるため、盛んに取り組まれています。国ごとに考え方が異なるので、認証制度も基準や目的がさまざまです。オーストリアの認証制度では医療機関やリハビリのほか、保養施設やスパでの利用が主要になっています。ドイツは19世紀に広まったのがきっかけで、クナイプ療法が多いです。クナイプ療法とは5つの要素「水・ハーブ・運動・栄養・規則正しい生活」を使って、私たちが元々持っている自然の力を引き出すために考えた治療方法になります。

ヘルスツーリズムの課題

健康を目的としたヘルスツーリズムには、課題もあります。認証制度があるものの、利用者にとっては信頼できる客観的な基準がまだまだ少ないのが課題です。健康に繋がるサービスを利用するとき、ほとんどの人が「そのサービスは安心・信頼できるものなのかどうか」と考えるのではないでしょうか。しかし利用を検討しているサービスに効果の実績が少なければ、利用に踏み切れないこともあります。サービスの利用金額が高ければ、なおさらそのように感じるでしょう。客観的に評価できる基準がないため事業者がヘルスツーリズムを商品化しにくく、その結果流通しにくいのも課題の1つです。ヘルスツーリズムの課題は、科学的根拠を示して利用者に安心してもらうことだといえます。

ヘルスツーリズムの動向

ヘルスツーリズムの動向は、今後どうなるのでしょうか。今までは基本的に旅行で提供するプランのみを考えてきましたが、これからは旅行中以外のプランも検討していくことになります。科学的根拠を明確化して品質を掲示し、利用者が自分に合ったサービスを選択できるようにするのが、ヘルスツーリズムの目指す方向性です。

参考:外部リンク
ヘルスツーリズムの現状と認証基準について

ヘルスツーリズムの事例4つ

太陽光 ここでは、実際に行われているヘルスツーリズムの事例を紹介します。

①生活習慣病予防の森林セラピー

生活習慣病や心の健康・運動をテーマにした森林セラピーで、ドイツの気候療法を参考にしたものがあります。気候療法とは普段の生活とは違った気候の地域へ行くことで、休養や疾病の治療を目指すものです。気候だけではなく太陽光や気圧など、自然環境による刺激を受けることで健康づくりに活用できると考えられています。千葉県の大房岬自然公園で海や森を利用し、座観やストレッチなどを行うのです。

②乳がんのリハビリが目的のヨガ

天然温泉の入浴により、乳がんのリハビリを目指すヘルスツーリズムがあります。専門知識と看護師の経験を積んだインストラクターが、心身ともにリラックスできるようお手伝いするのです。同じ経験をした人同士が集まることによって悩みの共有ができ、不安が和らぎます。呼吸をすることに意識を集中すれば、ストレスの軽減が期待できるのです。

③自分で自分の健康を守ることを意識したプログラム

大自然のある環境を強みとして、生活習慣病を予防するために健康の専門家が監修したプログラムです。健康な体を維持することが目的で、食事や運動・癒しと健康がどう繋がるのかを学びます。生活習慣病や運動のほかに、心の健康や食などさまざまなことがテーマとなっているので、バランスよく健康の課題にアプローチができるのです。肉体年齢の測定や温熱浴体験などがあり、学びながら体験して自分の身体と向き合う内容になっています。温熱浴は身体が快適な温度に包み込まれるので、疲労回復や免疫力の向上が期待できますよ。

④大賞を受賞した群馬県のプログラム

NPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構が実施している、第12回ヘルスツーリズムの奨励賞を受賞した群馬県のプログラムを紹介します。谷川岳にある大自然を活用し、既存のプログラムにヘルスツーリズムの要素を足したプログラムが評価されました。谷川岳は標高1,900mを超える日本百名山の1つであり、たくさんの人がハイキングやクライミングに訪れるのです。登山コースが豊富で、初心者でも本格的な登山をしたい人でも楽しめます。群馬県のプログラムは、身体の状態を理解するために「運動、休養、シェア、計測、栄養、継続」の計6つを目的にして自律神経を整えることを重視しています。ターゲットにしているのは慌ただしい都会の会社で働くビジネスマンです。2018年には利用者が500名を超えており、その多くが県外の利用者となっています。

参考:外部リンク
ヘルスツーリズム対象決定

コロナにより予防や免疫が旅の要点になる時代

免疫 食べ物

コロナ禍を経て起こった価値観の変化

コロナ禍では自粛やソーシャルディスタンスなど、我慢が必要な生活様式になりました。閉鎖的な空間に長時間いることに対して、心身の疲労を感じている人が多いです。このような時代で今後は免疫と旅行に注目が集まるだろう、との考え方もあります。日本では免疫に関するWebサイトの記事が発表されたり書籍が発売されたりするなど、免疫についての関心が高まっているのです。免疫を考えた料理を食べることは、コロナ禍の終了後も意識したいことと言われています。体調や免疫の手助けを目的とした食品の市場は、昨年に比べて伸びているのです。世界でもハーブやビタミンなどに注目が集まっていて、日本と似たような動向となっています。

お伝えした通り健康維持を目的に旅行をすることは以前からありましたが、コロナ禍になりさらにその傾向が強くなったと言えるのです。利用者がこれからの旅行に求めることとして、健康維持や、リラックス、日常からの解放などが多くあります。コロナ禍で私たちの免疫に対する関心が高まったと言えるのです。

そもそも免疫の仕組みとは

免疫力を高めるには、免疫のことを理解する必要があります。そもそも免疫とは、体を細菌やウイルスなどの異物から守る仕組みのことです。体に異物が侵入したら体を守る働きを持つ成分がそれを攻撃して、体内の環境の維持に努めます。そのため体に免疫がなければ、普通の人が感染しないような弱い病原体に感染するのです。免疫があるおかげで、基本的に1度かかった感染症にはかからないと言われています。このことを獲得免疫といいますが、ワクチンは獲得免疫の仕組みを用いているのです。

参照:外部リンク
私たちの体を守る免疫システム その良い面と悪い面

これからは免疫力の向上も求められる

私たちの腸内には、およそ6割から7割の免疫細胞があると考えられています。そのため免疫力の向上を図るには、腸内の環境を整えて善玉菌を増やすことが大切です。善玉菌はヨーグルトのテレビCMでおなじみの乳酸菌やビフィズス菌ですが、これらを増やすには食物繊維やオリゴ糖もたくさん摂ります。私たちの町内には善玉菌と悪玉菌、そのどちらにも属さない菌がいてバランスを保っているのです。腸内で多い順からどちらにも属さない菌、善玉菌、悪玉菌となります。個人によって腸内細菌の種類は違いますし、生活様式によっても違うのです。善玉菌の割合を増やすには、乳酸菌やビフィズス菌を含む納豆やヨーグルト、乳酸菌飲料などを摂ります。食事で摂った乳酸菌やビフィズス菌は腸内に永住することはないと考えられているので、毎日続けて摂るのが大事です。食物繊維やオリゴ糖には、善玉菌を増やす働きのある成分が含まれています。果物や野菜、豆などがたくさん含んでいるので、食事に摂り入れてください。

世界の免疫力向上を考えた旅行の事例とは

以前からヘルスツーリズムに重きを置いていたタイでは、ヘルスツーリズムに関わるキャンペーンを立ち上げて、さらに増進しています。タイの伝統医学に西洋医療を取り入れたウェルネススパを提供し、コロナ後の滞在プランとして提供するのです。元々美容の意識が高かった韓国では、韓国のヒーリングスポットや森林浴スポットの紹介に努めています。2018年からはウェルネス観光地を認定して、コロナ後の観光客増加を図っているのです。

旅行時に気をつけるべき感染対策とは

手洗い 旅行と健康の関係が注目されている昨今、企業の福利厚生で旅行へ行く機会ができることもあると思います。ここでは旅行時に気をつけるべき感染対策を、改めて確認しましょう。

主要な3つの感染対策

ご存知の方も多いかもしれませんが、もう一度おさらいします。
  • マスク着用
  • 人との距離を開ける
  • 手洗い・消毒
マスク着用と咳エチケットを心がけます。人混みではこの2つを徹底してください。咳やくしゃみの飛沫には、ウイルスが潜んでいる可能性があります。マスクがないときは、ハンカチもしくはティッシュで口と鼻を覆ってください。とっさの場合は袖や上着の内側で覆って、周囲に咳が広がらないようにしましょう。そして、人との距離をあけることも大切です。できるだけ最低1mもしくは2mあけるようにし、会話をするときは真正面を避けます。手指の消毒も必要ですが、手洗いも大切です。30秒かけてハンドソープを使い、念入りに手洗いを行いましょう。

旅行前に気をつけることとは

旅行前の2週間の、自身の体温や行動を記録することが大切です。新型コロナウイルスの潜伏期間は約2週間と言われているので、2週間という期間がポイントになっています。どれぐらい詳しく書けばよいか分からないかもしれませんが、いつもは行かない場所に行ったときや、いつもの生活と違う行動をしたときに、しっかり記録してください。家を出る前にも体温を測り、少しでも普段と違うと思えば旅行を中止します。咳が少し出たり喉が少し痛かったりする程度なら旅行へ行ってしまう人もいるかもしれませんが、やめておきましょう。

旅行中の注意点とは

旅行中の注意点では、常時手を綺麗にしておくこととできるだけ顔をさわらないことが大切です。ウイルスは手についた後、鼻や目、口などの粘膜から侵入しますので不特定多数の人が触る場所に触れた時は特に注意します。顔は無意識に触ることも多いですから、手を綺麗にすることを心がけましょう。

ヘルスツーリズムと健康経営の関係

健康 ヘルスツーリズムと健康経営は、どちらも健康を目的とするため、深い関りがあります。企業が福利厚生として豪華な社員旅行を提供している場合もありますし、旅行に限らずとも従業員の健康増進のための運動なら、健康的な旅行をすることに繋がるのです。
当コラムでは、健康経営について情報発信をしています。以下のコラムを読めば、健康経営について理解が深まるので合わせてご覧ください。

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働き方改革の目的が理解できていない人は、以下のコラムもご覧ください。

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現在「体を壊すまで頑張る時代」から「従業員の体調管理を企業が行う時代」に変わりつつあります。良い変化の妨げにならないためには、時代の流れを読んでそれに合わせた言動を心がけることも大切だと思うのです。

まとめ

ヘルスツーリズムについて解説しました。これまでは趣味という位置づけであった旅行が、健康を主体として考えるものになっているのです。それだけ、国民の健康への意識が高まっていると言えるでしょう。健康に長生きをしたいのは、誰しも同じです。感染症の対策に気を付けながら、健康的な旅行を楽しんでください。
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