• 就職/転職
  • 2021.04.01 (最終更新日:2022.04.06)

長時間労働の原因とは。その危険性や対策を確認する

目次

日本人が働きすぎだと言われている理由

長時間労働 残業

長時間労働の定義について

まず「何時間働いたら長時間労働と言えるのか」ということを考えましょう。法的にどれだけ働けば長時間労働になる、という定義が定められているわけではありません。だからといって完全に個人の判断で労働時間を決められるわけでもないのです。長時間労働かどうかを考えるときの目安として、労働基準法や厚生労働省の基準などがあります。

労働基準法で1日や1週間の労働時間の条件が決められていますが、業種や時期によってはその決まりを守ることが難しくなります。そのために「36協定」があり、労働者や使用者の間で合意があれば労働時間を超えても働けるようになっているのです。36協定では、月45時間、年360時間が時間外労働の上限時間と決まっています。

厚生労働省では、健康障害が発生する危険のある労働時間を定めています。月45時間以上働くと、健康障害の危険が少しずつ高まると言われているのです。また2ヵ月から6ヵ月の間の平均労働時間が80時間を超えれば、心臓疾患や脳の疾患の危険が出てくると言われています。

長時間労働をしている人が多い

諸外国と比較してみても、日本は長時間労働の割合が多い国です。「労働時間やメンタルヘルス対策等の状況」という資料の17ページ目を見てみると、週に49時間以上働いている労働者の割合は、18.3%でした。表の中で最も少ないドイツを見てみると、7.7%となっています。日本はドイツと比較して長時間労働の割合が10.6%も多い状況だと分かりました。

参照:外部リンク
労働時間やメンタルヘルス対策等の状況より


ドイツはなぜ長時間労働の割合が少ないのでしょうか。ドイツでは日本よりもずいぶん厳しく、労働時間の法律を決めています。まず1日の労働時間は8時間以内にする必要があるのです。10時間までなら労働時間の延長も可能ですが、その代わりに別の日の労働時間を短くしなければなりません。労働者の健康を守るために、ここまで厳しい法律が決められているのです。

仕事量が増加しそうだと感じたら、経営者は社員の数を増やすことで1人1人の労働時間が長引かないようにします。会社の社員の労働時間を抜き打ちで確認されるなど、労働時間の監視も日本より厳しいのです。社員に10時間を超える労働をさせた会社には、罰金が科せられます。日本とドイツでは、労働に関する法律に違いがあるのです。

日本とドイツの労働環境にはもう1つ大きな違いがあります。ドイツの有給休暇は、毎年24日間与えられるのです。しかし実際は、この数字より上回る有給休暇を与えている会社が多くあります。日本の法律では有給休暇の最低取得日数は10日と決められており、とても少ないことが分かりますよね。

日本では周りが働いている中で自分だけ休むことへの罪悪感があるため、有給休暇の取得にためらいを感じるのが現状です。また残業や休日出勤するのが偉いとの考え方をする考え方も未だに根強いので、長時間労働の削減や有給取得率が向上しにくいと言われています。

長時間労働の危険性について

残業

ストレスの蓄積による生産性の低下

長時間労働が長引くと疲労が溜まるので、睡眠時間が減ったり食生活が乱れたりします。身体に直接目立った変化がないにしても、ストレスが溜まりやすくなるのです。私たちの脳は、精神的な苦痛と肉体的な苦痛をどちらもストレスだと捉えます。ストレスを受けた脳は、視床下部が反応して下垂体に危険を知らせるのです。そしてコルチゾールというストレスホルモンが、刺激を受けた副腎皮質から分泌されます。

コルチゾールの分泌が身体に与える影響は、筋肉の緊張です。血の巡りが悪くなると、肩コリや疲労感だけではなく倦怠感などいろいろな不調を来します。血の巡りが悪くなると脳の働きが悪くなるので、集中力や思考力の低下にも繋がるのです。また日中にストレスを受けすぎると、睡眠にも影響が出ます。私たちの身体は睡眠をとることで全身を整えていますから、睡眠が不十分だと当然疲労感が溜まるのです。睡眠が不十分だと自律神経や免疫力にも悪い影響を及ぼすので、ますます体調の悪化に繋がります。溜まったストレスを放置していると、確実に仕事の生産性が低下するのです。

命の危険に繋がる可能性がある

長時間労働を続けていると、鬱や過労死など命の危険に繋がる可能性があります。私たちは睡眠中に身体の調子を整えるだけではなく、脳に溜まっているストレス物質を取り除いたり記憶の整理を行ったりしているのです。睡眠が不十分だと、脳がストレス物質を取り除けませんし記憶の整理もできません。そしてまた不健康になるという悪循環に陥るのです。

過労死はどうして起こるのでしょうか。私たちの脳は身体の危険を本能で感知するので、体が本格的に動けなくなる前に休憩を望みます。しかし真面目で自分を追い込みやすい性格の人は、自分の身体が救いを求めていることに見て見ぬふりをして仕事を頑張るのです。自分の容量を超えて働き過ぎている場合、脳は強引に身体を休めようとします。これが鬱の状態です。朝に身体が動かなくなったり仕事に行きたくないと思ったりするのは、脳が休んだ方がいいと判断しているわけですね。

しかしそれでも無理して働き続ける人がいます。鬱になっても休まなかった結果、内臓機能に悪影響を及ぼしてしまい心疾患や脳梗塞になる可能性があるのです。本人の意思とは関係なく自殺を選んでしまうこともあります。

人材が定着しなくなる

インターネットの発達した現代では良い情報が伝わりやすい反面、悪い情報もすぐに伝わってしまいます。現在就職・転職活動をしている人は、情報収集の一環として積極的にSNSを利用しているのではないでしょうか。その中でも特に「プライベートの時間はあるかどうか」や「長時間労働が多くないかどうか」に重きを置いている人も多いことと思います。そのため一度ブラック企業という評価がついてしまえば、その会社に人材が集まらなくなるのです。

長時間労働自体にも、人材が定着しなくなる原因がありますよ。加齢により体力が落ちてしまうと、長時間労働に耐えられなくなるのです。長時間労働に耐えられなくなった結果、若者を育てられるベテランの社員が退職してしまい、若者も育たないとの悪循環に陥ります。長時間労働を社員に強制させることは、いずれ会社自体の経営状況が悪化することにも繋がるのです。

5つの長時間労働の原因を確認

残業 長時間労働

①仕事量が多いのに人手不足である

長時間労働を蔓延させている原因の1つに、深刻な人手不足があります。厚生労働省が出している「人手不足の現状把握について」の資料の8ページを見ると、人手不足の深刻さが分かるのです。また同じ資料の9ページを見ると、人材の流出が流入を上回っていることが確認できます。

参照:外部リンク
人手不足の現状把握について より


長期的な安定を希望して大手企業に就職した若者も、労働環境が合わずに退職することがあります。また中小企業のように即戦力となる40歳前後の社員を確保できている会社でも、退職の多さから常に人手不足に悩んでいるのです。

仕事量が多くなるほかの原因に、不景気によるコスト削減があります。非正規雇用やリストラされる社員が増えればその分、社員に任せられる仕事量が増えるのです。人件費を削ったとしても当然利益は出し続けなければいけませんので、今までと同じ仕事量があります。人材が減っても今までと同じ仕事量をこなさなければならないので、仕事時間が長くなるのです。

社員1人が担う仕事量が増加すれば、効率よく仕事を回さなければなりません。しかし何も変化を起こさず今まで通りのやり方で進めていくと、残業時間が増えます。残業時間が増えれば体調が悪化して休職をしたり退職をしたりする社員が出てくるのです。そうなると、さらに1人がこなす仕事量が増えていくという悪循環になるわけですね。体調を崩さずに仕事をこなしている社員には、今まで以上に労働時間の負担がかかります。

②マネジメントできていない

部下が長時間労働をしていても見て見ぬふりをする管理職がいることも、長時間労働の原因です。そのような職場では改善の施策を実施していないので、長時間労働をしている部下が多くいます。マネジメント不足が起こる原因は、コミュニケーションが少なかったり部下が相談しにくかったりすることです。

③閑散期と繁盛期の差が開いている

繁盛期と閑散期で忙しさの差が大きな仕事も、長時間労働になりやすいです。人材が多すぎるのは、会社にとって効率が良くありません。そのため多くの会社では閑散期を元にして人材を確保しており、必然的に繁盛期は忙しくなるわけです。

④長時間労働が評価される環境である

これまでの日本社会では1つの会社に長く勤める年功序列形式が一般的で、転職にてキャリアを形成する考え方は浸透していませんでした。1つの会社に長年勤めることが評価されていた日本では、社内での仕事ぶりが昇進・昇給に繋がります。社内での仕事ぶりを評価するシステムが出世競争を生み出した結果、長時間労働が蔓延したと言っても過言ではありません。また、会社の文化と評価制度には深い繋がりがあります。周囲よりも長時間勤務することが評価の対象となり、それが当たり前だと定着することで、残業が評価される仕組みが出来上がるのです。

⑤余計な集会がたくさんある

会議や朝礼、打ち合わせに至るまで余計な集会が多いのも、日本の会社の課題です。会議や集会の内容よりも、会議をしたという事実が評価されるので、余計な時間が増える原因になっています。余計な集会が多ければ、それに伴って資料を作成する時間も増加し、大事な業務に費やすべき時間が削られるのです。会議でたくさんの資料を必要とする場合は、業務時間が削られるだけではありません。資料を用意する側と目を通す側の両者に負担を与えます。

本来会議を行う時間は1時間のはずなのに、2時間以上経っていたことはありませんか。何も思い浮かばないのに時間だけが過ぎているような会議には、意味がありません。会議の時間を守らないことも、長時間労働の原因の1つと言えます。

長時間労働を対策している会社の取り組みとは

社員 帰宅 長時間労働を課題だと捉えて対策している会社は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

上司が積極的に現状を変えようとしている

「労働時間の長い人はそれだけ会社に貢献している人だ」と評価する仕組みが、長時間労働の原因だと分かりました。この現状を変えるために、積極的に上司が長時間労働は良くないことだと発信する必要があります。長時間労働のデメリットを発信するだけに限らず、定時退社を進めていけば社員も定時に帰宅しやすくなるのです。

さまざまな家族の形がありますので、男女どちらもワークライフバランスが大切になります。ワークライフバランスを増進しているからと言って、突然仕事の量が減るわけではありません。ただ定時退社を進めるだけではなく、効率よく働いている社員の評価が高い会社は、長時間労働の対策をしている会社だと言えるでしょう。

管理職に対して研修を行っている

個人の仕事に対する能力も、長時間労働の原因の1つです。管理職には社員を適切に配置する能力や、コミュニケーション能力、指導力などさまざまな能力が必要。また、管理職の人が若手社員だった頃と比べて、コンプライアンスの内容も仕事内容も変わっています。世代ごとに常識が違うことを知っていて、社員の価値観を考えられる想像力も必要なのです。

管理職に対して研修を行うことが、なぜ長時間労働の対策になるのでしょうか。管理職にマネジメント力をつける研修をすれば、社員に効率の良い仕事の方法を指示することが可能になり、会社の業績を上げることに繋がるからです。コミュニケーション能力は、世代の違う部下を指導するときに役に立ちます。管理職に対して研修を行っている会社は、会社が抱えている問題を放置せず取り組む姿勢があると言えるでしょう。

勤怠管理をシステム化している

これまで利用してきたタイムカードは賃金の計算時に手間がかかるため、勤怠管理をシステム化する会社が増えています。そのため、労務に関わる事務を外注する会社もありました。労務に関わる事務を外注した場合、今度はその情報を集計・管理するのに手間がかかるのです。

考慮されたのは、業務の都合だけではありません。テレワークやフレックスタイム制などの新しい働き方にも対応できるよう、勤怠管理をシステム化する会社が多くなっています。しかし勤怠管理システムを取り入れたら、全てが滞りなく進むわけではありません。勤怠管理システムを上手に利用できない社員がいたり、もともとある会社のシステムと合わなかったりすることもあります。全ての社員が使いこなせる勤怠管理システムを取り入れて、1人1人の勤怠を正しく把握している会社は、長時間労働の削減に取り組んでいると言えるでしょう。

長時間労働のない会社を見極めるためには

長時間労働 残業 近年長時間労働をするよりも、効率よく働いてワークライフバランスを重視したい若者が増えています。長時間労働のない会社を見極める方法はあるのでしょうか。長時間労働のない会社を見極めるのは難しいですが、削減に取り組んでいる会社を探す方法はあります。

健康経営という取り組みの一環として、残業時間の削減を目指している会社があるのです。健康経営とは、社員の健康管理をすることにより会社にもメリットがあると捉える考え方。優良な健康経営を行う会社を顕彰する「健康経営優良法人制度」という制度もあります。
詳しくは、以下のコラムをご覧ください。

おすすめコラム
健康経営に係る顕彰制度について

残業している社員がいれば、上司から声をかけるようにしたり具体的な退社時間を決めたりしています。しかし、ただ残業しないというだけでは根本的な解決に繋がりません。社員同士で退社時間を共有することによって、業務時間の使い方を考える取り組みをしている会社もありますよ。近年、表面上だけ残業時間を削減するのではなく、根本的に長時間労働の課題を解決しようと考える会社も出てきました。就職・転職活動の情報収集として、会社が行う健康経営の取り組み内容を確認するのもおすすめです。

まとめ

長時間労働について解説しました。長時間働く危険性や原因が分かっても、現状を変えるのは難しいのです。こんな中でも、さまざまな取り組みを行って状況の改善をしている会社もあります。視野を広げてさまざまな情報を集めれば、条件に合った会社を見つけることができるのではないでしょうか。
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